夏祭りの夜、浴衣のままで | 第1話
地元の夏祭りに来るなんて、何年ぶりだろう。 屋台の明かりと焼きそばの匂いに包まれながら、俺はひとり、参道をぶらついていた。
ふと、浴衣姿の人混みの中に、見覚えのある後ろ姿があった。
しなやかな黒い
髪、紺色の朝顔柄の浴衣。
まさか、と思って少しだけ距離を詰める。
「……葵?」
彼女が振り返った。
「あ、やっぱり……久しぶり。元気だった?」
──間違いない。 中学の同級生、佐伯葵。 当時はちょっと芋っぽくて、おとなしいタイプだったはず。
でも今目の前にいる彼女は、雰囲気が違っていた。 細く整った眉、淡いリップ、そして浴衣から覗くうなじに、思わず視線が引き寄せられる。
「え、ひとり? 私も」
笑いながら、屋台のたこ焼きを差し出してきた。 「ひとりで食べきれないから、半分こしよ」
その自然な仕草に、思わず頷いていた。
再会を喜ぶというより、なんだか妙に落ち着く時間だった。 一緒に焼きとうもろこしを食べて、金魚すくいをして、肩を並べて歩く。
花火が上がった。
どん、と夜空を震わせて、大輪の光が広がる。 そのたびに、彼女の横顔が明滅する。
「……ねえ」
「ん?」
「ちょっと、静かなとこ行かない?」
そう言って、彼女が指さしたのは、神社の裏手。 人通りのない石畳の階段を上った先、小さな社のそば。
蝉の声と、遠くの花火の音。 それだけが、ふたりを包んでいた。
「ここ、覚えてる? 中学の時、よくこの裏でサボってたじゃん」
「……覚えてるよ。君と二人で弁当食べた日とか」
彼女は少しだけ笑った。 そして、ぱたりと草の上に腰を下ろす。
「なんかね、今日……久しぶりに会えて、すごく嬉しかった」
「俺もだよ」
「昔と違って……ちゃんと顔見て喋れるし」
頬が赤いのは、花火のせいか、それとも。
「……風、ちょっと涼しくなってきたね」
そう言いながら、彼女が浴衣の袖をふわりと広げる。 中の肌着が薄く透け、鎖骨の下に汗がきらめいていた。
──それに気づいた自分が、息を呑む。
鼻緒が草を擦る音。 それだけが、やけに耳に残った。
