社会心理学:第15回 文化と社会的行動の総括 — 相互独立的自己・相互協調的自己
社会心理学:第15回 文化と社会的行動の総括 — 相互独立的自己・相互協調的自己
1. はじめに:私たちが囚われている「見えない空気」の正体
全15回にわたる「社会心理学」の講義も、いよいよ今回の第15回をもって最終回、感動のグランドフィナーレを迎えます。
第1回のガイダンスから始まり、社会的認知、対人帰属、社会的自己、態度変容、対人引力、同調や服従、社会的促進や手抜き、集団思考、傍観者効果、社会的学習、内集団ひいき、そして前回の沈滅の螺旋にいたるまで、私たちは人間がいかに「状況の力」や「集団の力学」によって自らの行動や推論を無意識のうちに左右されているか、その驚くべきメカニズムを実証データとともに解剖してきました。
さて、この全15回の旅路を締めくくるにあたり、皆さんに最も根本的であり、かつ最もスリリングな「最後の問い」を投げかけなければなりません。
日常の思考実験:私たちが疑わなかった「心理学の常識」への挑戦
これまでの講義で学んできた数々の大発見を思い出してください。「人は、自分の行動の背景にある状況を無視して、相手の性格のせいにしてしまう(根本的な帰属の誤り)」「人は、自分の高い買い物や矛盾した行動を、後から都合のいい言い訳を作って正当化する(認知的不協和の低減)」「人は、集団の中で自分の実力を測るために、似たような仲間を物差しにする(社会的比較理論)」これらの心の動きは、地球上に生きる「人間」であれば、アメリカ人でも、ヨーロッパ人でも、そして私たち日本人でも、いつでも100%同じように発生する「人類普遍の脳のバグ(心理法則)」なのだろうか?それとも、私たちが育ち、今まさに呼吸している【この「文化(Culture)」という巨大な社会構造】が変われば、これらの前提すらもが根底から引っくり返ってしまうのだろうか。
実は、20世紀後半までの伝統的な社会心理学(その多くはアメリカの大学の実験室で行われ、欧米人の被験者を対象としていました)は、これらの発見を「人類共通の普遍的な心のメカニズム」であると暗黙のうちに信じ込んできました。
しかし、1980年代以降、文化の違いが人間のマクロ・ミクロな社会的行動にいかに決定的な変容をもたらすかを実証的に検証する「文化心理学(Cultural Psychology)」というフロンティアが急速に台頭しました。そして、その研究の最前線が暴き出したのは、「欧米圏で発見された心理学の常識の多くが、アジア圏(特に日本)の社会環境においては、全く異なる形で作動している、あるいは作動すらしない」という驚愕の事実だったのです。
私たちは、どのような「文化の眼鏡」を通して世界を見つめ、どのような自己概念を生きているのか。本日の最終講義では、ヘイゼル・マルクスと北山忍による「相互独立的自己観」と「相互協調的自己観」の対比を主軸に、これまでの全14回の知見を壮大に総括し、現代社会の課題への大展望を提示します。知の集大成を始めましょう。
ここから先は
この記事が参加している募集
本学の維持と発展のために、ご支援いただけますと幸いです。宜しくお願い致します。
