社会心理学:第9回 集団意思決定の罠 — なぜ集団は極端な結論を出すのか
社会心理学:第9回 集団意思決定の罠 — なぜ集団は極端な結論を出すのか
1. はじめに:「三人寄れば文殊の知恵」という神話の崩壊
前回の講義では、1人の人間が集団という「場」に入り込んだときに発生する独自の力学(グループ・ダイナミックス)について学びました。他者の視線が個人のパフォーマンスを揺るがす「社会的促進・抑制」や、自分の貢献が埋没することで発生する「社会的手抜き(リンゲルマン効果)」のメカニズムを解剖したはずです。
【第3部:集団における人間の心理と行動】の2ステップ目となる第9回のテーマは、集団が何らかの合意や判断を形成するプロセス、すなわち「集団意思決定(Group Decision Making)」のダークサイドです。
私たちは日常、重大な決断を下すときほど、1人だけの独断を避け、複数人で集まって話し合い(会議やミーティング)を行おうとします。日本のことわざにも「三人寄れば文殊の知恵」とあるように、「1人では思いつかない多様な視点が生まれ、客観的で、バランスの取れた、賢い決定ができるはずだ」と信じているからです。
しかし、社会心理学が歴史的な政治の悲劇や実験室のデータから暴き出したのは、これとは真逆の恐ろしい現実でした。
日常の思考実験:ネットの炎上と会議の暴走 あなたが、ある商品の企画開発チームの会議に参加しているとします。最初は全員が「リスクもあるから、無難で安全なA案にしようか」と、控えめな意見を持っていました。
しかし、1人のメンバーが「いや、他社に勝つためには、これくらい大胆なB案で勝負すべきじゃないか?」と少し尖った意見を口にしました。すると、別のメンバーが「確かに。守りに入ったら終わりだ」と同調し、さらに別のメンバーが「むしろもっと過激なC案のほうがバズるのでは?」と煽り始めます。会議が数時間進み、最終的にチームが下した公式な結論は、最初に全員が想定していたよりも遥かにハイリスクで、無謀で、過激な「超大博打のプラン」でした。会議室を出たあと、あなたはふと冷静になり、「なぜあんな極端な結論に、全員が満場一致で賛成してしまったのだろう」と背筋が寒くなります。
個々の人間は、決して無謀なギャンブラーでもなければ、無能な人間でもありません。むしろ1人ずつ個別にアンケートを取れば、全員が「このプランは危険だ」と冷静に判断できる優秀なエリートたちです。にもかかわらず、彼らがひとつの「会議室(集団)」に閉じ込められて議論を戦わせた瞬間、単独の人間では絶対に選ばないような、致命的に愚かで極端な結論へと熱狂的に突き進んでしまう。
なぜ、集団の話し合いは狂気をはらむのか。本日は、議論が集団を極端な方向へとブーストさせる「集団極化(グループ・ポラライゼーション)」、そして組織の閉鎖性が致命的な誤断を招く歴史的病理「集団思考(グループ・シンク)」のメカニズムについて、圧倒的なボリュームで徹底的に解剖していきます。
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