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eco検定合格講座 第8講:生物多様性と「ネイチャーポジティブ」

eco検定 攻略:(全15講)

第8講:生物多様性と「ネイチャーポジティブ」

——生態系サービスの恩恵と、2030年までの「自然再興」へのロードマップ

第8講へようこそ。私たちはこれまで、気候変動や循環経済といった、主に物理的・化学的なアプローチを学んできました。しかし、それらすべての土台となる「生命の基盤」を扱うのが、この生物多様性のセクションです。

「生物多様性」という言葉は、単に珍しい動物が生き残っている状態を指すのではありません。私たちが食べるもの、吸う空気、ビジネスに使う原材料、そして心の安らぎに至るまで、すべては精緻に組み上げられた生命のネットワークによって支えられています。

本講義では、生命が提供する多角的な価値と、それを守るための国際的な新ルール、そして企業が直面する「自然のリスク」について、徹底的に解剖します。


1. 生物多様性の3つのレベル:試験の基礎知識

生物多様性は、以下の3つの階層で捉える必要があります。試験ではこれらを混同させる問題が出るため、明確に区別してください。

  1. 生態系の多様性: 森林、湿地、サンゴ礁、草原など、地域ごとに異なる環境が存在すること。

  2. 種の多様性: 動物、植物、微生物など、多種多様な生き物が存在すること。

  3. 遺伝子の多様性: 同じ種であっても、地域や個体ごとに異なる遺伝子を持っていること(これにより、病気や環境変化に対して種全体が生き残る強さが生まれます)。


2. 生態系サービス:私たちが受けている「無償の恩恵」

人類が自然から受けている恵みを「生態系サービス」と呼びます。ミレニアム生態系評価(MA)によって定義された以下の4分類は、eco検定における最頻出項目です。

① 供給サービス

  • 内容: 食料、水、木材、繊維、医薬品の原料などの提供。

  • ビジネスへの直結: 農業、漁業、製薬、アパレルなど、あらゆる産業の「原材料」の供給源です。

② 調節サービス

  • 内容: 気候の安定、洪水の防止、水の浄化、病害虫の制御。

  • 重要性: 森林が二酸化炭素を吸収し、湿地が洪水を和らげる。この「調節」機能が失われると、気候変動の被害はさらに深刻化します。

③ 文化的サービス

  • 内容: 景観の楽しみ、レクリエーション、精神的な癒やし、宗教・伝統文化の基盤。

  • ビジネスへの直結: 観光業(エコツーリズム)やウェルネス産業において不可欠な価値です。

④ 基盤サービス

  • 内容: 光合成(酸素供給)、土壌形成、栄養塩の循環。

  • 特徴: 他の3つのサービスを支える「土台」となる機能です。これがなければ、他の恩恵はすべて消失します。


3. 生物多様性を脅かす「4つの危機」

なぜ今、多様性が失われているのか。環境白書でも定義されている「4つの危機」を整理します。

  1. 第1の危機: 人間活動による破壊(開発、乱獲、埋め立て)。

  2. 第2の危機: 自然に対する働きかけの縮小(里山・里海の荒廃。手入れ不足による劣化)。

  3. 第3の危機: 人間により持ち込まれたもの(外来種の侵入、化学物質の汚染)。

  4. 第4の危機: 地球環境の変化(気候変動による生息域の喪失)。


4. 国際的な新戦略:昆明・モントリオール生物多様性枠組

2022年のCOP15(生物多様性条約締約国会議)で採択されたこの枠組は、現在の試験の最重要拠点です。

ネイチャーポジティブ(自然再興)

2030年までに生物多様性の損失を食い止め、「回復の軌道に乗せる」という目標です。カーボンニュートラルが「排出を抑える」守りの戦略なら、ネイチャーポジティブは「自然を豊かにし直す」攻めの戦略です。

30by30(サーティ・バイ・サーティ)

2030年までに、陸域と海域の少なくとも30%以上を保全・保護することを目指す国際目標です。国立公園だけでなく、企業が所有する森など、民間活動によって保全されているエリア(OECM:保護区以外の効果的な地域ベースの保全手段)が注目されています。


5. 遺伝資源と利益配分:名古屋議定書

生物多様性の議論は、科学から政治・法律へと及びます。

  • 名古屋議定書(2010年): 途上国などの生物資源(薬草など)を利用して先進国の企業が利益を得た際、その利益を公正に配分するルール(ABS:遺伝資源の取得と利益配分)を定めました。

  • カルタヘナ議定書: 遺伝子組み換え生物(LMO)が移動する際の安全性を確保するためのルールです。


6. ビジネスと自然の関係性:TNFDの衝撃

今、企業にとって最も熱いトピックがTNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。 第10講で詳述しますが、企業は「自社の活動がどれだけ自然に依存し、どれだけ影響を与えているか」を財務的に評価・開示することが求められるようになりました。森林破壊に関与している企業の製品は、投資家から「投資不適格」とされる時代の到来です。


7. 第8講:合格のための総仕上げ(最重要ポイント)

この講義の核心を、間違いやすいポイントに絞って整理します。

  1. 生態系サービス4分類: 供給、調節、文化的、基盤。基盤がすべてを支えている。

  2. ネイチャーポジティブ: 2030年までに自然を回復軌道に乗せること。

  3. 30by30: 陸と海の30%を2030年までに保全する。

  4. 名古屋議定書: 遺伝資源の利益配分(ABS)。

  5. 里地里山: 長年にわたり人間が適切に手を入れることで維持されてきた多様な自然環境。


🏛️ 教授のあとがき

「生物多様性」とは、40億年という気の遠くなるような時間をかけて地球が編み上げた、究極の「安定化システム」です。その糸を一筋ずつ引き抜いていく行為が、いかに危ういか。私たちはようやくその恐怖を「ネイチャーポジティブ」という言葉で共有し始めました。

自然は一度壊れると、二度と同じ形には戻りません。ビジネスの世界では「資本」は再調達できますが、絶滅した「自然資本」は二度と調達できないのです。この緊張感を持って、次の課題へと進みましょう。

次回、第9講「プラスチック資源循環と海洋汚染」。第3部の締めくくりとして、現代の「利便性」が生んだ最大の矛盾と、2022年施行の最新法規について解説します。

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