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社会心理学:第11回 対人援助行動 — 人はなぜ、いつ他者を助けるのか

社会心理学:第11回 対人援助行動 — 人はなぜ、いつ他者を助けるのか


1. はじめに:大都会の真ん中で見過ごされた悲鳴

前回の講義では、集団の統率と個人の関係性を規定する「リーダーシップ」と「フォロワーシップ」のダイナミズムについて学びました。状況の厳しさや部下の成熟度(SL理論)、そして目標達成(P)と集団維持(M)のバランス(PM理論)がいかに組織の命運を分けるかを解剖したはずです。

今回から、講義は【第4部:対人行動の光と影 — 援助と攻撃、ステレオタイプ】という新たな局面へと突入します。その出発点となる第11回のテーマは、人間の持つ社会的性質の最もポジティブな側面である「対人援助行動(向社会的行動:Prosocial Behavior)」です。

私たちは、困っている人や危機に直面している人を見かけたとき、「当然、人間には良心があるのだから、可能な限り手を差し伸べるべきだ」と考えます。しかし、社会心理学が歴史的な大事件や冷徹な実験室のデータから暴き出したのは、「人が他者を助けるかどうかは、個人の良心や道徳心(パーソナリティ)だけでは決まらない」という、極めて衝撃的な事実でした。

ここで、皆さんに1つの陰惨な、しかし社会心理学の歴史を大きく変えた有名な歴史的事実を提示してみましょう。

歴史的な事件:キティ・ジェノヴィーズ事件(1964年) 1964年3月13日の深夜、ニューヨークの閑静な住宅街で、キティ・ジェノヴィーズという28歳の女性が暴漢に襲われ、命を落とすという痛ましい事件が発生しました。

この事件が世界中に凄まじい衝撃と激しい議論を巻き起こしたのは、事件そのものの残虐さゆえではありませんでした。当時のニューヨーク・タイムズ紙が、次のような不気味な見出しで報じたからです。「暴漢に襲われた女性の悲鳴を、近隣の住民『38人』が自宅の窓から目撃・耳にしていながら、誰一人として警察に通報せず、助けにも向かわなかった」当初、マスコミや知識人たちは「大都会に暮らす現代人の心が冷酷に麻痺してしまった」「都会の人間疎外が生んだ冷漠さだ」と、住民たちの道徳性の欠如(パーソナリティ)を激しく非難しました。

しかし、社会心理学者のビブ・ラタネ(Bibb Latané)とジョン・ダーリー(John M. Darley)は、この常識的な批判に疑問を抱きました。「目撃した人々が冷酷だったから助けなかったのではない。【大勢の目撃者が同時に存在していたという『状況』そのものが、人々の足を止めさせたのではないか】」と。

「三人寄れば文殊の知恵」が意思決定の暴走(第9回)を招いたように、他者を助けるという崇高な行動すらも、他者の存在(状況の力)によって完全に麻痺してしまう。本日は、他者がいることで援助が抑制される「傍観者効果」の5段階ステップモデル、人が利他行動を起こすための「動機づけ(共感—利他主義仮説)」のからくりについて、徹底的に解剖していきます。

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