社会心理学:第8回 集団の動態(グループ・ダイナミックス) — 1人+1人が集団になるとき
社会心理学:第8回 集団の動態(グループ・ダイナミックス) — 1人+1人が集団になるとき
1. はじめに:集団は単なる「個人の足し算」か
前回の講義では、他者や集団が個人の行動を揺るがす「社会的影響」について学びました。アッシュの線分比較実験にみる横並びの「同調圧力」や、ミルグラムの実験が暴き出した縦の「権威への服従」を通し、私たちは人間がいかに周囲の状況によって行動を左右される存在であるかを痛感したはずです。
【第3部:集団における人間の心理と行動】の初回となる第8回からは、分析の焦点を「個人」から「集団(Group)」そのものへとシフトさせていきます。その中核となる理論が、今回のテーマである「グループ・ダイナミックス(集団力学:Group Dynamics)」です。
私たちは日常、学校のクラス、職場のプロジェクトチーム、サークル、あるいは家族にいたるまで、無数の「集団」に属して生きています。ここで、皆さんに1つの素朴な、しかし本質的な問いを投げかけてみましょう。
日常の思考実験:綱引きと「本気度」の謎
あなたが運動会の「綱引き」に参加しているところを想像してください。もし、あなた1人だけで体重計のような測定器に繋がれた綱を全力で引いたとしたら、あなたは自分の限界である「100%の力」を出すはずです。では、あなたと全く同じ筋力を持つ仲間を集めて「8人のチーム」を作り、みんなで一斉に綱を引いたとします。このとき、チーム全体が発揮するパワーは、単純計算で「1人分の全力 × 8倍 = 800%」になるでしょうか。それとも、何らかの変化が起きるでしょうか。
常識的に考えれば、「みんなで力を合わせるのだから、相乗効果で800%以上の力が出るはずだ」あるいは「最低でも800%にはなるはずだ」と思いたくなります。しかし、社会心理学が実験によって明らかにしたのは、「集団の人数が増えれば増えるほど、個人が発揮するパフォーマンスの割合はむしろ低下していく」という驚くべき、そして少し不都合な人間の現実でした。
集団は、単に個人をパズルのように組み合わせた「足し算の場所」ではありません。1人の人間に、もう1人の人間が加わって「集団」が形成された瞬間、そこには個人の意思を超えた独自の力学、すなわち「集団力学(グループ・ダイナミックス)」が動き始めます。
本日は、他者の存在が作業効率を劇的に高める「社会的促進」、逆に個人の力を手抜きに導く「社会的手抜き(リンゲルマン効果)」のメカニズムを解剖し、さらに集団内の情報伝達を支配する「コミュニケーション・ネットワーク」の構造について、徹底的に講述していきます。
ここから先は
この記事が参加している募集
本学の維持と発展のために、ご支援いただけますと幸いです。宜しくお願い致します。
