社会心理学:第6回 対人引力と親密な関係 — 人はなぜ他者に惹かれるのか
社会心理学:第6回 対人引力と親密な関係 — 人はなぜ他者に惹かれるのか
1. はじめに:なぜ私たちは「特定の誰か」を求めるのか
前回の講義では、私たちの心の中にある「社会的態度」がどのように形成され、またどのような力学によって変化(態度変容)していくのかを学びました。ハイダーのバランス理論やフェスティンガーの認知的不協和理論を通して、人間の脳がいかに「一貫性や調和」を保つために自己正当化や態度の修正を行っているか、その内面的なダイナミズムを解剖したはずです。
【第2部:対人関係と社会的影響の心理】の2ステップ目となる第6回のテーマは、人間のあらゆる社会的行動のなかでも、最もエモーショナルで、かつ私たちの幸福度を直接左右する領域――「対人引力(対人魅力:Interpersonal Attraction)」と「親密な関係(Close Relationships)」の心理です。
私たちは生きている限り、無数の他者と出会います。しかし、そのすべての人間に対して同じような感情を抱くわけではありません。ほとんどの人は「ただのすれ違う他人」として通り過ぎていく一方で、なぜ私たちは特定の誰かに対して「もっと近づきたい」「友人になりたい」と感じ、時には激しい「恋愛感情」を抱いて特別な関係を結ぼうとするのでしょうか。
ここで、皆さんに1つの素朴な日常の問いを投げかけてみましょう。
日常の思考実験:あなたが「親友」や「恋人」を選んだ本当の理由
あなたにとって最も親しい友人、あるいはこれまでに好意を抱いたパートナーの顔を思い浮かべてみてください。なぜ、あなたは他の誰でもなく、その人でなければならなかったのでしょうか。「外見が自分の理想に完璧に合致していたから」「性格が優しくて、一緒にいて居心地が良いから」「趣味や価値観、笑いのツボが驚くほど似ていたから」色々な理由が浮かぶはずです。では、さらに踏み込んでみましょう。その人と最初に出会ったのは、どこでしたか?もしも、その人と通う大学や職場、住んでいる地域がまったく違っていたとしたら、あなたは地球の裏側を探し出してでも、その人と結ばれていたと言い切れるでしょうか。
多くの人は、対人関係の始まりを「運命的な出会い」や「お互いの魂の結びつき」といったロマン主義的な物語で語りたがります。しかし社会心理学が冷徹に暴き出したのは、人間が他者に惹かれるプロセスの裏には、「物理的な距離」「見慣れることの効果」「お互いのコストと報酬の計算」といった、極めてシステマティックで環境的な法則性が働いているという事実です。
人はなぜ他者に惹かれ、関係を深め、そして時にその関係は崩壊していくのか。本日は、人が他者に惹かれるための「4つの対人魅力の規定要因」、関係の損益計算を説明する「社会的交換理論」、そして親密な関係の発展モデルについて、徹底的に解剖していきます。
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