花嫁を探しています【ショートショート#144】(850字)
あれは結婚式当日のことでした。野外式場で指環交換を迎えたその瞬間、リングボーイが運んできたリングピローを前に、突然の夕立が式を襲ったんです。雷鳴と豪雨に参列者が屋内へ逃げ込む混乱の中、新婦の奈緒子は忽然と姿を消しました。
式は中止となり、わたしは奈緒子の親族と共に必死の捜索を続けました。しかし一か月以上が過ぎても手掛かりはありません。そんなある日、「山奥でウエディングドレス姿の女性を見た」という連絡が入りました。義父に命じられたわたしは、結婚指環を鞄に忍ばせ、一人で山へ向かいました。
だが目撃者とは連絡が取れなくなり、山中を彷徨うことになってしまいました。そこでわたしは泥にまみれたウエディングドレスを発見したんです。さらに奈緒子の靴を持つ老婆と出会い、驚くべき真相を聞かされました。この山には鬼が棲み、夕立の雷に紛れて人里から娘を攫い、嫁にするのだというのです。老婆自身もかつて鬼の花嫁だったといいます。
わたしは涙ながらに事情を話しました。すると老婆はわたしに狐の面を貸してくれました。持ち物をすべて「強酸の沼」に捨てれば鬼に正体を見破られないというのです。私は従いましたが、指環だけは捨てられず隠し持っていました。
狐面をつけて鬼の里へ潜り込んだわたしは、鬼たちの嫁入り行列の先頭に白無垢姿の奈緒子を見つけました。隙を見て彼女を奪還したのですが、鬼たちの追跡が始まりました。奈緒子を連れ沼に辿りつくと、なぜ正体が露見したのかと老婆に問われたので、隠していた指環を正直に見せました。
わたしと奈緒子は追手の迫る中で指環を交換し、結婚の誓いを果たしたうえで指環を強酸の沼へ投げ捨てました。指環はたちまち溶けて消えました。鬼たちは我々を見失い、無事に山を脱出することができました。そして後日、改めて結婚式を挙げることができたのです––––。
月刊『超常ジャーナル』202■年6月号
特集:禁断の実録怪異ファイル
「■■山中に消えた花嫁を追え!」より抜粋
※この物語はフィクションです。
こちらの企画に参加させていただきます。
