相続税が払えない—延納・物納という最後の手段
「財産はあるのに、現金がない」という危機
相続税は、相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に、金銭で一括納付するのが原則です。
ところが、財産の大半が実家や土地といった不動産のご家庭では、「財産はあるのに、納税する現金がない」という事態が現実に起こります。納付が遅れれば延滞税がかかり、放置すれば最終的には財産の差押えにも至ります。
こうした「払えない」に備えて、国は2つの救済制度を用意しています。分割払いの延納と、モノで納める物納です。今回は、この2つの制度を正確に整理します。
延納 ― 相続税の「分割払い」制度
延納とは、金銭での一括納付が困難な場合に、相続税を年払いで分割納付できる制度です。
ただし、クレジットカードの分割払いのように気軽に使えるものではありません。延納は国への借金という位置づけで、次の4つの要件をすべて満たす必要があります。

注意したいのは②です。手元の現金や換金しやすい財産でいったん払えるだけ払い、それでも足りない部分だけが延納の対象になります。「全額を分割にしたい」は原則通りません。
延納期間と利子税
延納できる期間は、相続財産に占める不動産等の割合によって変わり、不動産の割合が高いほど長くなります。最長で20年です。
そして、延納には利息にあたる利子税がかかります。現在は特例割合が適用され、低金利環境下ではおおむね年0.1〜0.7%程度と、かなり低い水準です。
ここで実務的なポイントを一つ。延納の利子税は低いとはいえ、金融機関の相続税納税資金ローンと比較する価値があります。担保の縛りや手続きの負担まで含めると、借入で一括納付したほうが総負担で有利なケースもあるためです。「延納ありき」ではなく、必ず比較検討を。
物納 ― 「モノで納める」制度は、今もある
「物納は昔の制度では?」と思われる方もいますが、物納制度は現在も存続しています。
ただし、そのハードルは延納よりさらに高く設定されています。
物納が認められるのは、延納によっても金銭納付が困難な場合に限られます。
つまり、順番はこうです。現金で払う → 払えない分は延納 → 延納でも無理な分だけ物納。いきなり「土地で払います」はできません。
物納できる財産には「順位」がある
物納に充てられるのは、相続した国内財産のうち、法令で定められた順位に従ったものです。

物納の重要ポイント2つ
物納を検討するうえで、絶対に知っておくべきことが2つあります。
一つ目は、引き取り価格(収納価額)は「相続税評価額」だということです。時価ではありません。以前のコラムでお伝えしたとおり、相続税評価額は実勢価格より低いのが通常です。さらに、小規模宅地等の特例を適用した土地なら、特例適用後の低い価額で収納されます。つまり、市場で売れる不動産なら、物納より売却して現金で納めるほうが有利なことが多いのです。
二つ目は、なんでも物納できるわけではないことです。管理処分不適格財産——抵当権が付いている、境界が確定していない、共有になっている、といった不動産は物納できません。「売れない土地を国に引き取ってもらおう」という発想は、制度上通用しないのです。むしろ、物納できるのは「きちんと整備された、売ろうと思えば売れる財産」だけ、というのが実態です。
なお、延納を続けるのが困難になった場合に、途中から物納へ切り替える特定物納という仕組みもあります。
3つの選択肢を、冷静に比較する
「払えない」と直面したときの選択肢を整理します。

見てのとおり、延納・物納は「最後の手段」であり、多くの場合、それより手前の選択肢(売却や借入)のほうが有利です。だからこそ、10ヶ月という限られた期間で最適な判断をするには、早い段階での資金計画が欠かせません。
本当の対策は「払えない事態を作らない」こと
延納・物納という救済制度はありますが、どちらも負担と制約を伴います。理想は、この制度に頼らずに済む準備を、生前にしておくことです。
相続税の概算を把握し、納税資金の過不足を試算しておく
生命保険で、納税用の現金を確実に用意しておく
分けにくい不動産は、生前に売却・組み替えも検討する
「どの財産で払うか」まで含めて、遺言・分割の設計をする
「財産はあるのに払えない」は、事前の設計で防げる危機です。我が家の納税資金は足りるのか——その試算から、一緒に始めていきましょう。
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※延納・物納の要件、利子税の割合、管理処分不適格財産の判定は、財産の内容や個別の事情により異なります。具体的な適用は税理士等の専門家にご確認ください。
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