映画『パーフェクト ワールド』が描いた、二人の孤独
子どもの頃の記憶って、不思議です。
細かい出来事は忘れているのに、「あの時こうしてほしかった」という感情だけは、妙に残っていたりします。
もっと褒めてほしかった。
一緒に遊んでほしかった。
話を聞いてほしかった。
欲しかったおもちゃそのものより、その向こう側にあった「自分を見てほしい」という気持ちのほうが、ずっと長く残るのかもしれません。
映画『パーフェクト ワールド』を観ると、私はいつもそんなことを考えます。
脱獄犯と少年のロードムービー。
文字だけを見ると、かなり物騒な話です(笑)
でも、この映画の中心にあるのは犯罪ではありません。
大人になりきれなかった男と、子どもらしく生きられなかった少年。
その二人が、偶然同じ車に乗ることになった物語です。
◆ あらすじ
1963年、アメリカ・テキサス。
刑務所から脱獄したブッチ・ヘインズは、逃亡の途中でフィリップという少年を人質に取ります。
ブッチを演じるのはケビン・コスナー。
一方のフィリップは、厳格な家庭環境の中で育った少年です。
同年代の子どもたちが普通に楽しんでいる遊びや行事にも、あまり縁がありません。
当然、最初の二人は「犯罪者と人質」。
ところが車で逃亡を続けるうちに、その関係は少しずつ変わっていきます。
食事をする。
くだらない話をする。
フィリップがやってみたかったことに、ブッチが付き合う。
そうした小さな時間が積み重なり、二人の間には奇妙な信頼が生まれていきます。
そして二人を追うのが、クリント・イーストウッド演じるテキサス・レンジャーのレッド・ガーネット。
彼もまた、ブッチという男を単なる脱獄犯としては見ていません。
追う者と追われる者。
そして、一緒に旅をする少年。
その関係が少しずつ見えてくるほど、この映画は単純な逃亡劇ではなくなっていきます。
ここから先は、知らないまま観たほうがいい映画です。
ブッチとフィリップの旅がどこへ向かうのかは、ぜひ本編で見届けてください。
この映画で私が一番心に残るのは、ブッチがフィリップに接する姿です。
ブッチは立派な大人ではありません。
そもそも犯罪者です。
やってきたことを肯定することもできません。
でも、フィリップが何かを「やってみたい」と言ったとき、それを頭ごなしに否定しない。
子どもだからダメ。
危ないからダメ。
そんなふうに簡単に押さえつけないんです。
そこには、ブッチ自身の子ども時代が重なっているようにも見えます。
自分がしてもらえなかったこと。
自分が欲しかったもの。
それを、目の前の少年には与えてやりたい。
そんな気持ちがあるように感じるんですよね。
人は、大人になったからといって、子どもだった頃の自分を完全に捨てられるわけではないのかもしれません。
むしろ、心のどこかにずっと連れて歩いている。
だから、他人の子どもを見て昔の自分を思い出したり、誰かに優しくされた瞬間、昔の寂しさまで一緒に救われたりすることがあります。
ブッチとフィリップは、年齢も立場もまったく違います。
でも、心の中に「満たされなかった子ども」を抱えているという意味では、少し似ています。
だからこそ二人は、不思議なほど通じ合うのかもしれません。
そして、『パーフェクト ワールド』というタイトルも面白い。
映画の中の世界は、全然パーフェクトではありません。
家庭も。
社会も。
大人たちも。
誰も完璧ではない。
なのにタイトルは「完璧な世界」
私は、この言葉は「何も問題がない世界」という意味ではないような気がします。
ほんの一瞬でも、
「この時間が続けばいい。」
と思える場所。
自分を否定されずにいられる時間。
子どもの頃に欲しかったものを、やっと手にできた瞬間。
それが、その人にとってのパーフェクト・ワールドなのかもしれません。
大人になるというのは、子どもを卒業することではないのだと思います。
昔の自分を心のどこかに残したまま、それでも前へ進んでいくこと。
そして、自分が子どもの頃にもらえなかったものを、今度は誰かに渡してあげることもできる。
優しい言葉かもしれない。
一緒に過ごす時間かもしれない。
「やってみなよ」という一言かもしれない。
『パーフェクト ワールド』を観ると、そんなことを考えます。
完璧な世界なんて、たぶんありません。
でも、誰かにとっての「少しだけ完璧な時間」なら、私たちにも作ることができるのかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました☺️
◆ 作品紹介
作品名:パーフェクト ワールド
原題:A Perfect World
公開年:1993年
製作国:アメリカ
ジャンル:犯罪/ドラマ/ロードムービー
上映時間:138分
監督:クリント・イーストウッド
主な出演:
ケビン・コスナー
クリント・イーストウッド
ローラ・ダーン
T・J・ローサー
こんな方におすすめ
・派手さより人間ドラマを味わいたい方
・ロードムービーが好きな方
・親子や子ども時代について考えさせられる作品が好きな方
・善悪だけでは割り切れない人物を描いた映画が好きな方
