見出し画像

ルビンの壷を見るAIの「意識」

関数とみなした確率分布の引数に当たる排反的な事象は、各観測者、もっと端的に言えば観測者の認知と、その主体である「意識」が決めています。

確率を考えるときには、皆さんも普段あまり深く考えてないかもしれませんが、「同時に実現をしない事象」の集合を最初に考える必要があります。その後に、その各事象へ確率を付与するわけですが、では誰がこの事象が同時には実現しないと判断しているのでしょうか?

同時に実現しない事象の集合を用意するのは、確率を操作をする主体の「意識」であるとするのが、量子力学におけるフォンノイマン鎖の考え方です。

見落とされがちですが、確率を使うときに排反的な事象をその主体が自分で選んでいるという事実は、決して自明なことではありません。確率を数学のコルモゴロフ公理体系の中で扱う場合でも、最初にこの事象の集合を指定をしなくてはいけません。

たとえば人間の画と壷の画を区別するタスクを考えます。このときも「人間は人間であって、壷ではない」「壷は壷であって、人間ではない」という排反性のもとに、1つの画が人間である確率と壷である確率が定義できるのです。

でも有名な騙し絵である、「ルビンの壷」の場合はどうででしょうか?「人間の画」か「壷の画」か?これは事象の排反性を満たしているでしょうか?


ルビンの壷

ある観測者はこの画を2人の人間と認知しますし、別な観測者は1つの壷だと認知します。1人の観測者でも、ある時は「人間」、ある時は「壷」に見えたりします。このような場合、画が「人間」である確率と「壷」である確率を、数学的にどのように定義すれば良いのでしょうか?

例えば次のような可能性があります。

(1)伏せられていた画を観測者にパッと見せたその瞬間の判断で、「人間」か「壷」かを答えさせて、その頻度で確率を定義すること。この場合は飽くまで「人間」と「壷」の2つの事象に対する確率となる。

(2)「人間」と「壷」の2つの事象ではなく、「人間」「壷」「ルビンの壷」という3つの事象が排反性を持っていると定義をし直して、3つの事象に対する確率を定義する。

この(1)と(2)は、異なる確率概念を与えています。その差は事象に対する観測者の認知から生じています。このことが教えているのは、確率の定義自体も観測主体の認知、つまり「意識」に依存しているという事実です。そしてこの観測主体の認知が、量子力学のフォンノイマン鎖終端にも現れている「意識」と同じなのです。

例えばAIに人間の画と壷の画を区別させようとする時でも、教師付き機械学習では最初のデータで「これが人間」「これが壷」と教え込むわけですが、そのデータの区分けはそのデータを作った「意識」を持つ人間が行っています。その人間の「意識」が、AIよりも前に、排反的な事象を既に規定をしてしまっているのです。

また人間、壷、ルビンの壷の3つのデータを作って教師付き学習をすれば、新しい入力画像に対してAIはその3つから1つの答えを出力します。そのような変更でも、「これは人間」「これは壷」「これはルビンの壷」というデータの集合を、最初に選んで作った人間の「意識」が基になっている事実を忘れてはいけません。

「ルビンの壷」の画は、量子力学の重ね合わせ状態にも似ています。画としては「人」と「壷」の重ねあわせ状態を「ルビンの壷」と見なすこともできそうです。では翻って、量子力学で重ね合わせ状態を区別できる背反的な事象と見なすとどうなるでしょうか?実は量子力学の基本原理であるユニタリー性が壊れてしまうのです。

従って、量子力学が実験で未踏のプランクスケールまで含めてどこまでも完全に正しいのならば、この重ね合わせ状態を背反性のある事象に含めることはできません。しかし将来量子力学のユニタリー性が破れている現象が実験で見つかった場合には、各重ね合わせ状態を1回で区別できる測定方法が作られる可能性もあるのです。これは興味深い点だと思います。

将来AIサイエンティストが現れて、このような量子力学の確率に基づいた解析をして科学を自律的に進めるには、少なくとも排反的な事象を判断する認知能力を伴っている必要があります。そしてその能力の存在によって、そのAIは「意識」を持つと定義しても良いと考えられます。(ただし現時点のAIの認知や判断は、そのAIを教えた人間の「意識」の判断にまだ基づいています。しかし将来AIが人間とは異なる認知を獲得する可能性があります。)確率の引数となる排反的な事象も、そのAIの認知、即ち「意識」が決めます。量子力学に限らず、ルビンの壷の問題でも「人間」か「壷」かまたはその重ね合わせかと、自分で判断をするAIは確かに「意識」を持っていると、社会で広く認められる未来が来るかもしれません。


いいなと思ったら応援しよう!

Masahiro Hotta サポートありがとうございます。