【賃貸併用住宅】金融業界研究職が実体験ベースで解説するメリット・デメリット
不動産投資を扱う記事の多くは、完全収益物件を前提にしている。利回りやキャップレート、レバレッジ効率といった数字を切り口に語られることが多い分野だ。一方で、自宅部分と賃貸部分を一つの建物に収める賃貸併用住宅を扱った記事は少なく、建てた本人が意思決定の経緯まで書いたものは、少なくとも自分が探した範囲ではほぼ見当たらなかった。本稿では、金融機関の研究職という本業の傍ら、賃貸併用住宅を実際に建設し運用してきた立場から、この領域の全体像を整理する。

金融・税務/財務・不動産・ITを横断している人だと認識いただけるとイメージ通りかなと
キャリアを通じて不動産投資・運営に関わる論点はひととおり触れてきたので、同じように賃貸併用住宅を検討している人には、網羅的な判断軸を提供できるはずだ。記事だけでなく、個別の相談にも乗っているので、迷っている方は気軽にコメント、ご連絡いただければと思う。本シリーズは数字だけでは終わらせたくない。実際にそこに住み、家族と一緒に運用してきた実体験も交えて書いていくつもりだ。
賃貸併用住宅とは何か
賃貸併用住宅は、一つの建物の中に自宅部分と賃貸部分を併設する形態を指す。自分の場合は、親名義の土地に建物のみを建て、賃貸7戸・自宅2戸の構成にした。立地は都内のターミナル駅徒歩圏。構成そのものは珍しくないが、投資と暮らしが同じ建物に同居することで、完全収益物件の意思決定とも、自宅単体の住宅取得の意思決定とも異なる論点が生まれる。
投資物件ともマイホームとも異なる、この論点の核心は、マイホームに対する感情論と、投資としての意思決定との折り合いにある。融資・税務・財務といった数字の側は、論点さえ洗い出して数字化してしまえば、あとは好みの判断に近い。その洗い出しと数字化は、このシリーズや個別相談を活用すれば済む。難所はその先で、投資面での合理性とマイホームという感情論の折り合いをどうつけるかは、価値観の話としてあなたと家族にしかできない(この論点は意思決定編で掘り下げる)。感情面と投資面の擦り合わせに加えて、税務・財務、純粋な投資判断、建築時の注意点、建築会社選びについても、シリーズを通じて順に扱っていく。

メリット
メリットの多くは、レバレッジと収益源の設計に集約される。住宅ローン的な有利条件を使える余地があり、事業性ローン一本で組む設計と比べて、金利水準や審査の通り方が変わる構造がある(詳細は融資編で扱う)。自宅と収益部分が同居することで、収入源が給与単体・投資単体のどちらか一方に偏らない設計にもなる。
土地の活用という観点でも利点がある。更地のまま保有すれば固定資産税の軽減を受けられず、収益を生まない期間が続くが、賃貸併用ならそのコストを避けられる。自己資金だけでは届きにくい規模・仕様の住宅を、賃貸部分の収益力と合算して実現できる余地もある。親名義の土地を使う場合は、相続・世代間の資産活用という文脈も加わってくる(相続編で扱う)。
デメリット・複雑さ
賃貸併用住宅は「マイホームの負担が軽くなる」という言い方で語られることが多い。だが実態としては、マイホーム自体にすでにレバレッジがかかっている状態に、さらに賃貸部分のレバレッジを重ねる構造になる。変数が一つ増える分、複雑性が単純に上がる。
本来、マイホームは感情でそのまま押し流せてしまう類の意思決定だが、そこにシビアな数字の論点が入り込んでくる。これは面倒でもある一方、マイホームの意思決定に数字の論点を精緻に組み込めるという意味では、悪いことばかりでもない。
たとえば、住宅ローン控除を使うか事業性ローンで組むか、あるいは法人化するかという判断は、単純な二択にならない。自宅部分は家賃を払っていないため、その機会費用は収支表に乗らず、数字に表れない含み益あるいは含み損として扱う必要がある。この「乗らない機会費用」は融資審査にも波及する。銀行が積算評価(自宅を含む建物・土地全体の担保価値)で見るか、収益還元評価(賃貸部分の家賃収入を根拠にする)で見るかによって、算定される融資可能額に幅が出る(詳細は融資編で扱う)。売却や相続の局面でも、住居用部分と収益用部分で評価が割れることがあり、完全収益物件より出口の設計が複雑になりやすい。
こうした論点は、順番に一つずつ潰していかないと、進める過程で収拾がつかなくなりやすい。優先順位も分かりにくく、実際には後回しにして構わない論点も少なくない。ただ、相続税や融資まわりは、投資としての利回り以上に自身の資産全体へのインパクトが大きいケースが多い。極論すれば、利回りを1%改善するより、相続税や融資条件を詰めるほうがインパクトの大きい場合もある。利回りを0.1%でも上げる努力を否定するものではないが、効く順番は必ずしも直感通りではない。
完全収益物件の意思決定プロセスをそのまま持ち込むと、これらは抜け落ちやすい。利回りの数字だけを見て判断すると、後から効いてくる論点を取りこぼす構造がある。
どんな人に向くか
関心の入口は読者によって異なり、同じ建物形態でも刺さる論点は層ごとに変わる。
マイホーム検討層 ── 賃貸併用という選択肢を最近知った層。家賃収入を得ながら住宅を取得するという発想への入口になる
投資家層 ── 完全収益物件と比較して、利回り・IRRを数字で詰めたい層
投資家的思考を持つ層 ── 不動産に限らず、意思決定を条件分解して考える癖がある層
地主層 ── 相続予定の土地の活用先の一つとして検討している層
既存の不動産投資家 ── 次の一棟として賃貸併用を検討している層
士業・金融機関の担当者 ── 賃貸併用の意思決定プロセスを一次情報として押さえておきたい層
土地先行取得層 ── 数年前に土地だけ買っており、条件が良いので検討を始めた層
建築余力のある土地の保有層 ── 自宅を建てるにあたり、容積率などの条件に余りがある層
資金力のある層 ── アクセスの良い立地で戸建てを建てると眺望の抜けを取りづらいが、事実上の収益物件として建て、最上階を自分のペントハウスにすれば眺望を確保しつつ、24時間ゴミ出しなどマンション特有の利便性も得られる。建てる過程自体の面白さや、子どもに回り続ける資産を残せる点も大きい
逆に向かない層もある。投資対象を完全に切り離して管理したい層、勤務地や学区など居住地に強い制約がある層には、完全収益物件のほうがシンプルに合う。
もう一つ、家族仲が良好であることも前提として効いてくる。夫婦・子どもという核家族のレイヤーはもちろん、相続が絡めば親や兄弟姉妹も対象に入る。賃貸併用は物件としての構造が複雑になる分、売却や分割のしやすさでは完全収益物件に劣る。家族関係に不安があるなら、無理に賃貸併用にこだわらず完全収益物件を選ぶほうが無難なこともある。この種の判断も個別相談で扱っている。
シリーズの地図
本稿(総論編)を入口として、以下の各論を予定している。3本の主軸(意思決定編→建築会社選び編→税務・エンティティ編)を背骨として、そこから各論が枝分かれする構成にした。

意思決定編(主軸) ── 完全収益物件との比較、投資と暮らしを同居させる判断ロジック
融資編 ── 事業性ローンと住宅ローンのハイブリッド設計、銀行評価の見られ方
見えないコスト編 ── 自宅部分の機会費用の扱い方
詳細シミュレーション編 ── 外部ツールの紹介に留めず、空室率・修繕費率・金利変動シナリオなど前提条件を項目ごとに分解して検証する
建築会社選び編(主軸) ── 個人施主として発注先を選ぶ視点。同じ土地でも適する会社は土地の特性で変わる。得意な規模、大家と入居者どちらの優先順位を重視するか、力を入れているエリア、融通の利き方など、会社ごとに色があり、相談してみないと分からない部分が大きい
建築計画編(意思決定編・建築会社選び編の両方から派生) ── 判断と発注先が固まった後の、実際の設計・仕様の詰め方
税務・エンティティ編(主軸) ── 個人所有か法人化か、損益通算・住宅ローン控除との関係
相続編 ── 売却・相続時の評価分離
取得後運用編 ── 取得後の運用実務
各論はそれぞれ独立して読めるが、通して読むと一つの意思決定プロセスとして繋がる構成にしている。本稿はシリーズの1本目にあたる。
具体的な融資条件、サブリース契約の詳細、相続予定地の活用シミュレーションについては、個別相談で対応しています。たとえばサラリーマン大家で、かつ勤務先に借上社宅・住宅補助がある場合には、クリーンに両取りできる組み方があります。この種の話はここでは書ききれないので、記事にコメント等いただければと思います。
