MMT(現代貨幣理論)の死角【5】
今回も前回に引き続き、余談としたい。…と言うか、またしても本筋の議論を続けていこうとしている間に、掲題テーマ関連の情報に接することになってしまった。そこで批評を加えずにおれないのなら、むしろ余談を挟みながらの方が自然な気がしてきた。本論の時間的間隔があいてしまうのは、筆者が一般の会社員である為、余力があるときに執筆しているといった事情がある。ご容赦いただきたい。
そういうわけで今回気になったのは、
『政治家やマスコミの「利上げしろ!」に日銀が応じない理由(三橋貴明)』
という動画である。
これは経済評論家の三橋貴明氏がYouTubeで公開している番組で、なぜ日銀が利上げしないのか?という疑問に答える内容。再編集されて前半・後半と分かれており、最後におまけのように自著の宣伝が入る構成になっているのだが、タイトルの趣旨に沿っているのは前半部分だけである。後半はリニアや新幹線・高速道路網への公共投資、それによる経済成長を訴える内容となっている。
さて、本題に入ろう。以下、三橋氏の主張でおかしな点と私見を述べる。
まず前半。
・「日本銀行に為替の責任はありません」とのコメントは、誤解を招く表現である。政府とともに為替介入するからである。より正確に言えば、「財務大臣の代理人として、その指示に基づいて為替介入の実務を遂行」している。目下、円安を阻止するために円買いドル売りするかどうかが注目されている。
・「FRBが金利を上げているが、日米金利差の問題を解消するために日銀が金利を上げることができないのは、積極財政で好循環のインフレを起こせないから。実体経済の資金需要が増えないので金利を上げることができない」と言いたいようだが、これは一面的な理解に過ぎないのではなかろうか。デフレ体質にコストプッシュ型インフレが重なっていると思われる現状からすると一理あるが、スタグフレーションに陥るリスクを考えれば、緊急避難的な措置として金利を上げる選択肢も考えねばならないのではないか。米国の方が金利が高い現状からすると、高い金利を求めて円売りドル買いが進み、円安が加速するといった問題について解決するためにも日銀は金利を上げる他なく、積極財政だけでは解決することはできない。マクロ経済学の基本だが、ISーLM分析の観点から、財政政策と金融政策を連動したものとして捉える必要があるからである。
・「緊縮財政の責任転嫁をするために、日銀はスケープゴートにしやすい。金利を上げないという現行の政策は正しい」といった趣旨の主張をしているが、これも上記を考えると一面的な理解に過ぎず、誤解を招きやすいのではないか?あらためて整理すると、以下の三点に集約されると思われる。
①政府支出するときに国債が発行されるが、金融緩和を続ける以上、民間銀行経由で日銀が買いオペしている。ISーLM分析から財政政策と金融政策は一体的に考えないとならない。貨幣供給量が増えると金利が下がらざるを得ない。
②日米金利差の点でもおかしい。緩和マネーの流出=円安促進に歯止めをかけるためには、日本も金利を上げて金融引き締めに転じないとならない。
③コストプッシュ型とはいえ、インフレ抑制には暫定的に金利を上げるという措置を取らざるを得ないという金融政策の本道から。
・そもそも、そんなに国債を空売りして儲けようとするファンドに影響力があるのか、という疑問もある。
・「コストプッシュ型インフレだって、ちょっと円高に戻ったでしょ?」とコメントしているが、これも誤解を招く表現。全体トレンドはむしろ、円安が進行している。
・そもそも、緊縮財政論は本当なのだろうか。最近の予算編成からすると、22年度予算案は過去最大との報道がある。財務省データだが、歳出の推移は増加傾向にある。むしろ、「何に支出するか」が論点なのではなかろうか。何を基準に議論されているのかがよく分からない。詳しく調べる必要がありそうだ。
なお後半。
・「日本の新幹線整備計画」を積極財政の立場から「やりぁーいいじゃないですか!」と指摘しているが、今後の人口動態予測からしておかしい。なぜなら、地方都市は消滅する可能性があるからである。三橋氏の主張は、かつて田中角栄元首相が訴えた「国土の均衡ある発展」と同質である。全国津々浦々まで人口増加の恩恵を実感できた70年代前半当時だったならまだしも、それ以降の出生率低下の推移を考えれば、時代錯誤であると言わざるを得ない。皮肉にも「『高度成長期』の計画だった」と吐露してしまっている。
・仮に人口減少の影響で、今後地方都市が消滅したとしよう。三橋氏によると「交通インフラを整備すれば地方が近くなる」という計画があるそうだが、その結果、本当に一極集中している都民や府民などが地方に土地を買ったり移住したりするのか?という疑問もある。需要サイド・供給サイドの拡張均衡で経済成長につながると主張するが、人口動態(少子高齢化・人口減少)を加味しているように思えない。交通インフラ整備で「地方が近く」なれば、人口動態による縮小均衡を補って余りある経済成長が実現し、少子高齢化・人口減少が解決するとでもお考えなのだろうか。政策として詰めた議論にするためには、乗数効果のシミュレーションが必要なのではないか。ご自身の将来プランや願望を一般化しているきらいがあり、詭弁を弄しているように見える。
今回検証したように、三橋氏のYouTube番組はどこか白々しい。胡散臭さを感じるのだ。時々見せる笑いは、私には薄ら笑いや嘲笑に映る。この独特のエリート臭は、かつての日本共産党の上層部などに通じる偽善を感じる。時々サングラスをかけて登場しているが、演出というよりも、後ろめたさを隠しているように見える。彼も商売でやっているところやパーフェクトではないところがあるはずだ。ドグマに陥らないよう、批判的に視聴しないとならない。
