すっぱい夏
わが家では、夏になると少し変わったメロンの食べ方をする。
メロンを半分に切って、種をくり抜く。
そこへサイダーを注いで、スプーンですくって食べる。
妻が実家でしてきた食べ方を、娘たちに振る舞い始めたのがきっかけだ。
うちは二人姉妹なので、メロンは半分ずつ。
250mlの小さな缶のサイダーも、半分ずつ。
ただし、メロンに注ぐ前に必ず儀式がある。
娘たちはまず、サイダーを缶から直接一口ずつ飲む。
「すっぱい!」
二人そろって、同じような顔をする。
いや、すっぱくはない。
たぶん、舌の上ではじける炭酸の刺激を、まだうまく言葉にできなくて、「すっぱい」と呼んでいるのだと思う。
一口ずつ味見をしたら、残りを二つのメロンの穴へ。
シュワシュワと泡が立つ。
それだけでもう大騒ぎだ。
スプーンですくって食べていたかと思えば、今度はストローを突っ込んで吸い始める。
当然、テーブルにサイダーが飛び散る。
「ちょっと!」
この催しの主催者である妻の機嫌が、少し悪くなる。
私は最初、この食べ方を見たとき、少し邪道な気がしていた。
せっかく甘く実ったメロンに、さらに甘いサイダーを注ぐ。
果物への冒涜ではないのか、と。
もっとも、私の母は昔、半分に切ったグレープフルーツに砂糖をかけて食べていた。
人のことは言えない。
そして実際に食べてみると、これがなかなかにうまい。
メロンの甘さに、炭酸の刺激がやわらかく加わる。
しかも、普通に食べるメロンとは少し違った楽しみ方がある。
メロンは、中心に近いところがいちばん甘い。
だから普通に食べると、最初がピークだ。
皮に近づくにつれて、だんだん味が薄くなる。
それに合わせるように、食べる側のテンションも少しずつ下がっていく。
でも、この食べ方は少し違う。
最後には、メロンの果汁が混ざったサイダーが残る。
ストローで吸うと、そこでもう一度だけ盛り上がる。
メロンとしては終盤なのに、祭りはまだ終わらない。
「おいしい!」
「こっちのほうが多くない?」
今度は今更配分の公平性が問題になっている。
「喧嘩するなら、もうやらないよ!」
妻の最後通牒に、再び一瞬の緊張が走る。
が、子どもたちはお構いなし。
いつまで、メロンとサイダーだけで、こんなにお祭りみたいな大騒ぎができるのだろう。
子育ては、本当にしんどい。
早く大きくなってくれ、と思う日もある。
でも、いつか二人は、炭酸を飲んでも、もう「すっぱい!」とは言わなくなる。
メロンひとつで、こんなに大興奮することもなくなる。
そう思うと、ちょっとだけ。
このまま時間が止まればいいのにな、と思う。
もう少しだけ、この三ツ矢サイダーの「すっぱい」夏を見ていたい。
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