“いつか”なんて、もういらない。カッパドキアの空で私は泣いた
いつか叶えたい。
いつか、いつか、
と願い続けていた夢がある。
でも、「いつか」のままでは、
きっと一生、叶わないかもしれない。
カッパドキアの空で、
私は「今」を選ぶことの尊さに気づきました。
そして、泣くほど嬉しかったのは、
夢が叶ったからだけじゃない。
「今」を一緒に選んでくれる、喜んでくれる大切な人たちが周りにいたから。
ずっと憧れていた、気球に乗るという夢。
これは、「今しかない」と信じて動いた、カッパドキアへの旅の話です。

「いつか、あの気球に乗ってみたいよね」
10年来の友人と、そんな話をよくしていました。
私たちはトルコ・カッパドキアへの旅行をずっと夢見ていたのです。
ようやくお互いに休みを合わせられたのは、11月。
でも調べてみると、その季節は強風が多く、気球は欠航になりやすい。
オフシーズンでホテルは安くなっていたけれど、「飛べる確率は低い」と、あちこちの口コミに書かれていました。
たった5日間の休み。
もし気球が飛ばなかったら?
せっかく遠くまで行ったのに、それを叶えられなかったら?
そこで、ガイドブックを何冊も広げ、他の国への旅行の検討を始めます。
だけれども、頭の片隅にやっぱりカッパドキアに行きたい、その友人と一緒に叶えたい、とその思いがありました。
そして、なぜか思いました。
「今行かないと、一生行けないかもしれない」と。
「今じゃない」を繰り返していたら、
「もう遅い」が来てしまうかもしれない。
「行くしかないよね」
お互い同じ気持ちでした。
私たちは、わずかな可能性を信じて、旅に出ました。

カッパドキアの朝。
空はまだ深く青く、
吐く息が白く残るほど冷えていました。
霧がかかっていて、風も強い。
今日もまた、飛べないかもしれない。
そんな不安でいっぱいでした。
「ここ2週間、1回も飛べていないんだ」
送迎ドライバーがそう言った言葉が、頭を離れません。
静寂の中、火が灯され、
気球がゆっくりと膨らんでいきます。
「飛ぶの?」と聞くと、スタッフは首を横に振って言いました。
「ううん、まだわからない。ただ、準備をしているだけ」

そこから1時間が経ちました。
こんな遠くまで来て、見れなかったらどうしよう。
バンの中から、ただふくらんだままの気球をぼんやりと眺めるばかり。
バンの中は、誰も声を出さないまま静まり返っていました。
冷えた窓ガラスに、曇った息を指でなぞる。
暖房のぬくもりが、眠気を誘ってきます。
今日も、無理かもしれない。
そんな諦めがよぎった頃、
外でスタッフたちが急に走り出しました。
「Go!」
誰かが叫ぶ声が聞こえた瞬間、
私たちは思わず顔を見合わせました。
飛べる。空へ行ける――!
それだけで、さっきまでの眠気なんて地球の果てまで飛んで行きました。
「今日はラッキーだな!」
火を灯すスタッフも、なんだか嬉しそう。
2週間ものあいだ畳まれていたであろう気球の布が、
気持ちよさそうに皺をのばしてふわりと広がり、大きなカゴの扉が視界いっぱいに開きました。


やがて、気球のエンジンの重低音が、ボーッ、ボーッと鳴り響きはじめました。
その音は、まるで心にも火を灯すようで、
気づけばさっきまで凍えていた身体が、心ごとじんわりあたたまっていました。
そして、いよいよ離陸のとき。
私たちの気球は、なんとその朝、一番に飛び立ちました。
地上で手を振る人たちに、ちょっと照れながらも、小さく手を振り返す。
ふわりと浮いた瞬間、
世界が色を変えました。
朝日とともに空を飛んでいく感覚。
まるで映画のワンシーンのような、夢のような景色。

気づけば、私は泣いていました。
ずっと夢見ていたその瞬間が、
いま、目の前にありました。
遠くの未来のどこかにあると思い込んでいた幸せな景色が、もうここにありました。
景色の美しさに涙が出るなんて、人生で初めての経験でした。
ふと隣を見ると、友人も泣いていました。
朝日に照らされたその涙は、オレンジ色にキラキラと輝いていました。
目が合って、お互いに笑って、また泣きました。
こんなふうに、誰かと感情がまっすぐにつながる瞬間なんて、人生で何度あるんだろう。



そして帰国後。
私は、この景色を、
涙が出るほど美しかったこの朝焼けを、
大切な両親にも見てほしいと思いました。
でも、「いつか行ってほしいな」じゃ足りなかった。
今、ちゃんと叶えてあげたいと思ったのです。
還暦を迎えた両親にとって、
犬を飼っていること、地方に住んでいること、
イスタンブールでの乗り継ぎが必要なこと。
カッパドキアは決して気軽な旅先ではなかったかもしれません。
しかも、気球は天候に左右されてしまう。
もしかしたら、せっかく遠くまで行っても、飛べないかもしれない。
それでも、私は伝え続けました。
何度も、何度も、あの空の美しさを語りました。
大好きな両親に、同じ感動を味わって欲しかった。
そして一年後。
両親は実際に、その地を訪れてくれました。
母が送ってくれた写真には、
オレンジ色の空と、気球に乗り小さく笑う二人の姿がありました。
帰国後、「本当に行ってよかった」
そう言って笑う二人の顔を見たとき、私は胸の奥が、じんと熱くなるのを感じました。
あの旅が、家族の中にひとつ、新しい記憶を刻んでくれました。
両親の行動力に私も嬉しくなりました。
夢は、ただ願うものじゃなくて、
「動き出せるかどうか」で、ほんとうに形を変えるのかもしれません。

ホテルの部屋から見えた景色
(その次の日はキャンセルだったらしい)
それから更に1年後。
私は、うつ病と診断され、旅行に行くのが難しい状態になりました。
両親も祖母の介護が始まり、以前のように気軽には遠出ができなくなってしまいました。
行きたくても行きたくても、やっぱりどうしても行けない状況にまでなってしまいました。
だからこそ、あのとき「行っておいてよかった」と、今では心の底から思います。
「いつか」ではなく、「今」を選んでよかった。
あの朝の光景は、ただの美しい記憶じゃなく、
苦しいとき、立ち止まりそうなときに思い出して、私を支えてくれる希望になっています。
人生で叶えたい夢があるなら、
待たずに、今、踏み出してみる。
いつかをやめて、今を選んだ朝。
あの空の色が、私の人生の色を変えました。
人生には、気球が飛ぶ日も、飛ばない日もある。
でも、「飛ぶかもしれない」なら、私はこれからも信じて動き出したい。

カッパドキアで撮った写真たち








回って回って神に近づくというものらしい





もちろん買ってしまう



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