怪談百物語#59 氷
冬の北海道へ、家族でワカサギ釣りに来た。
湖に張った氷にドリルで穴を開け、そこに釣り糸を垂らすとら笠木がわんさか釣れる。
テレビでそれを見た子どもが「行きたい行きたい!」と言ってきかなかったのだ。
妻が調べてくれたんだが、最近は快適な環境でワカサギ釣りができるらしい。
湖の上にテントや小屋が立てられているんだそうだ。
そのうえ中ではストーブが焚かれているらしい。
これなら子どもも風邪をひかずに済むだろう。
そういうわけで北海道旅行が決まった。
予約していたワカサギ釣り体験の事務所につくと、釣り竿3本とバケツ3個を渡される。
そこに小屋がありますんでその中でご自由にどうぞ、だそうだ。
雪原の上にぽつんと小屋が建っている。
これ全部湖かよ、すごいな北海道。なんて感心していると子どもがバーっと走って先に小屋へ入ってしまった。
釣り竿も持たずに何するつもりだ。
苦笑しながら妻と一緒に後を追う。
お父さんとお母さんにワカサギ釣りに連れてきてもらった!
でもテレビで見た時はたくさん釣れたのに、僕は全然釣れない。
つまんないし、ずっと座ってるだけだから飽きちゃった。
お父さんはワカサギに夢中。
お母さんは温かくて竿もったまま寝ちゃった。
つまんない!
そういば、この氷の下って湖なんだよね。
割っちゃえ!
――ダン、ダン
全然割れない。もう一回!
――ダン、ダン、ぽちゃん
あ、何か落ちた。
なんだろ。
体中叩いてると、ポッケに入れてたはずのミニカーがなくなってた。
穴に落としちゃったのかな。
ワカサギ釣り用の小さな穴。
冷たい水がチャプチャプしてる。
泣いちゃいそう。
何とか届かないかな、濡れると大変だから袖をたくさん捲る。
いくぞ、うーんしょ。
冷たい!
僕の腕じゃ氷の下にも届かないや。
もう一回!
――コツン
ん?あった。
たぶんいつも遊んでる僕のミニカーだ。
よいしょ、やっぱりそうだ。
でも届いてなかったのになんでだろ。
穴を覗いてみると小さな目が見えた。
「ありがと。」
お礼を言うと、目はスゥって深いところに消えてった。
「あなた、なんで腕びちゃびちゃにしてるの!もー、タオル取ってこないと。」
目を覚ましたお母さんに怒られちゃった。
ごめんね。
お父さんが車から大きなタオルを取ってきて、お母さんが僕の腕を拭いてくれた。
「ありがと。」
「はい、もういいわよ。風邪ひかないようにストーブに当たってらっしゃい。」
「もう穴に腕を突っ込んじゃ駄目だぞ。」
お父さんとお母さんは僕の方をちらちら見ながら釣りを再開した。
あの子に引っかからないといいけど。
小さな目の子にひっかからないように、僕は釣りするのをやめたボーっと座っていた。
ストーブってあったかいなあ。
