怪談百物語#50 カエル
帰り道の途中に田んぼがある。
田舎なんで当たり前だけど、もうそこら辺にたくさん。
あっちもこっちも全部田んぼ。
梅雨の時期になるとたくさんのカエルが道に溢れる。
俺は歩いて帰るから大丈夫だけど、車で帰る人は大変だ。
うちの地方じゃカエルは大事にしないといけない決まりだ。
昔の殿様が帰る大層な好きだったそうで、それ以来村中で何百年も大事にされているそうだ。
まあ別にそんな絶対の決まり、ってわけじゃないから守る人もいれば守らない人もいる。
でも大事にした方が良いんだろうなっていう経験は誰しも一度は味わっている。
例えば裏のじいさんなんか、カエル鍋を食べたら腹を壊したし。
うちの父ちゃんもカエルを捕まえて遊んだら手の指にイボができたって話してた。
学校じゃカエルをホルマリン漬けにした先生がクビになったし。
ああいや、これは生徒への暴力が原因なんだけど。
ともかくカエルは大事にした方がいいんだ。
それなのに最近越してきた家の奴らときたら。
道路にカエルが溢れているってのに、気にせず車でふんずけていく。
「ほんと気持ち悪い!こんなとこ引っ越さなきゃよかった!」
なんて声が夜中、回覧板回しに行ったときに聞こえてきた。
みんなで説得した時は返事よく頷いてくれたのになあ。
「カエルは大事にします。」って言ってくれたのに。
困ったなあ。
梅雨が過ぎて夏が来た。
学校じゃ夏休みに入ったらしく、裏のじいさんとこにはお孫さんが遊びに来てるみたいだ。
あの越してきた家族はというと変わりない。
カエルが嫌いでぎゃーぎゃー言ってる。
そろそろ慣れればいいのにな。
前に住んでたところの友人か親戚かしらないけど、あの家族のとこへ遊びに来たらしい。
知らない顔が村を我が物顔で歩いてる。
商店のおばちゃんとこじゃ「品揃えが悪い。」だとか、村唯一のガソリンスタンドじゃ「高すぎる、ボッタクリだ。」なんてもう品行が悪い悪い。
都会って怖いとこだわ。
あんなんばっかり住んでるんだろ。
早く帰らないもんかねえ、と庭の池に来ていたカエルに話しかける。
握りこぶし程度の大きさのカエルは、一度アゴを膨らませると背を向けて草むらへ飛び込んでいった。
話し相手にもなりゃしない。
その日の夜、あの家の前を通った。
明かりが点いていない。
そういえばBBQがどうとか言ってたな。
ビールでも持ってってやるか。
こういう田舎臭いのも嫌いって言ってたな。
まあいいさ、住んでりゃそのうち慣れるさ。
川沿いの道路を歩いていると、すぐそこにテントが見えた。
あんな明るくしてると虫が寄ってくるぞ。
田舎をわかってねえなあと土手を下りて近付くも、人の気配がない。
どうなってんだ?
とりあえずビールをテントの前に置いて家に帰る。
ぬるくならないうちに見つけてもらえれば良いんだが。
次の日、あの家族と親戚連中の死体がいつ買ったと連絡が入った。
川の下流にある村からの連絡で俺ら若い衆が向かった。
下っていくと現場検証か何かで警察があちこちにいる。
連絡をくれた向こうのに挨拶をすると、遺体の顔を確認することになった。
間違いなくあの一家だった。
だからいわんこっちゃない。
カエルは大事にしないといけないんだ。
一応事情聴取を受けることになったが、何も知らないし、ビールを渡しに行ったことだけ話した。
死因は溺死、おぼれた子を助けに行ったら巻き添えになったらしい、ということになった。
病院のも警察連中も良く知った顔だ。
この辺の担当はみんなこの村の出だ。
だからカエルを大事にしないといけないんだ。
わかったな?
