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怪談百物語#65 ザクロ

夏の夜、海岸線を走る。
カーステレオからは沈静化したヒップホップが流れている。
人生に飽きたら海へ行く習慣。
大きく言ったが、まあ会社で上司のミスをカバーした腹いせだ。
いつもいつもあいつは。
イラついた感情も走る距離が延びるとともに、ガソリンのように減っていく。
飛ばすわけじゃなくのんびりと。
真っ暗な海と点在する街灯。
海岸沿いの生活を思いながら走る。
いつかは海に近い町で暮らしたい。
都会は息苦しい。
この町も住んでみればそうなんだろうか。

嫌な考えは吹き消した。
しばらく人通りのない道を走っていると。
海岸沿いで一人、黄昏れる女性を見つけた。
下心ありきの心配を胸に声をかける。
あっさりと成功、助手席に座る。
シートに沈む重みに唾を飲む。
カラカラの喉から声を絞り出す。
 「この辺りに詳しいなら、教えてくれませんか。朝まで遊べる場所。」
淡い桃色のネイルが塗られた指がカーナビを指す。
 「ここがおすすめですよ。」
舌っ足らずで可愛らしい声だ。
愛嬌のある丸い目、ナチュラルなリップ。
オフホワイトのワンピースを胴で絞ってカーディガンを羽織る姿は、ナンパに乗るようには見えない。
結構な遊び好きなのかもしれない。
指された場所はその筋では有名な駐車場だった。

車がまばらに止まる駐車場。
同じ目的であろうそれらは独特なリズムで揺れている。
停車し、サイドブレーキを上げるとシートベルトを外す間もなく唇を奪われる。
逃げようもなく奪われると、口内を這いまわる。
柘榴の感触。

思わず肩を掴み引きはがし、唾を思い切り噴き出す。
口内には血の味が広がっていた。
睨むように隣を見るとすでに女はドアの向こう側に居た。
月明かりに照らされてはっきりと顔が見えた。
弧を描くように開いた口に、無数の小さなぶつぶつと半分ほどで無くなった舌が見えていた。

私は息を飲むと急いでサイドブレーキを降ろした。
走りながらペットボトルの水で口をゆすぎ、窓の外に吐き出す。
まだあの女がいるようで、気味悪く助手席を見る。
シートベルトは閉めたまま、ドアのロックも外された形跡がなかった。

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