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怪談百物語#70 門番

観光地に実家がある友人から電話が入った。
 「お前、今骨董品の店やってたよな。買い取って欲しいもんがあるんだけど。」
時々こういう話が来る。
田舎の実家で大掃除中に掛け軸やら、古そうな家具が見つかったとか。
そう言ったものは基本的に二束三文だ。
遠くまで行っても時間と金の無駄になることが多い。
だからあんまり乗り気じゃないんだが、この友人が相手なら話は別だ。
ただ会いたい。
大学時代に悪い遊びをした仲だ。
良い機会だ、時間を作るか。

予定を合わせて、次の週の金曜。
店に『CLOSE』の看板を掛けて、仕事終わりに新幹線で神戸へ向かう。
土産は何もないけどまあいいか。
途中の駅で間に合わせよう。
駅に着いてタクシーに乗り換える。
連絡のあった住所に着くと、夜にも関わらず友人が門の前で待っていてくれた。
 「おお!久しぶり!わざわざ来てもらって悪いな。」
 「本当に久しぶりなんだけど、全然変わらないじゃないか。これ良かったら皆さんで。」

玄関に迎え入れられながら土産を渡す。
相変わらずの人当たりの良さに、近況報告だけで旧交が深まる。

誰もいないリビングに案内されて席に着く。
 「家内らには今、旅行してもらっててね。二人で色々話がしたかったんだよ。」
商談ついでだったんだがなんだ、相手は逆に商談がついでだったのか。
そう思っていると、表情に出ていたのだろう。
友人はちょっと待っててと苦笑いを浮かべると、隣の部屋から大きな箱を重そうに抱えて持ってきた。
 「これはな。」
友人が腰を叩きながら話しだす。


戦後だかなんだか知らないけど、昔この辺は外国人が住んでたとかで有名なんだ。
今でも異人館なんて名前で呼ばれて観光地みたいになってるんだけど。
うちに来るまでにも綺麗な庭の館あっただろ。
それだよ。
今では開放されてて俺達も入れるけどさ、昔は個人の所有だったんだ。
そういえばこの時期は庭のどの花が綺麗だとか家内が言ってたな。
まあ俺達には無縁だよな。ハハ。
それで異人館は同じ通りにいくつも立ち並んでいるんだが、その中に立派な門のある館があってな。
その門の両脇に何か置けそうな台座があるんだ。
今は何も置いてないんだけど。

ここからが本題だ。
祖母が子どもの頃の話なんだが、そこには銅像が置かれてたらしいんだ。
曰く、カエルの腹に牛の頭、表情は人間めいていて髭面の男が怒っているような顔だったんだと。
俺が直接見たわけじゃないからわかりやすく例えられないけど。
まあ、そんな変な像が左右の台座に置いてあったんだ。

その異人館、当時はただの洋館だな。
そこには赤毛の夫妻が住んでたらしい。
祖母は、その辺の洋館の前の道を掃除する仕事をしてたんだ。
 「子どもなのに偉いですね。」って洋館の主である外国人達によく褒められたそうだ。
彼らは日本語が喋れるみたいで、祖母も親近感がわいたんだろうな。
そんなことを言われたりあいさつしたりしてるうちに、祖母からも色んな人に話しかけるようになったんだ。

ある日、その立派な門がある洋館の夫妻にもあいさつしたんだ。
 「こんにちは。おじさんたちはおうちの前、自分でおそうじするんだね。」って。
夫妻は洋館の主にしては珍しく、自分で掃除する人だった。
気軽に話しかけたのはいいが、夫妻は日本語がわからなかったみたいでな。
困ったような表情で、それでも手を振って返してくれたんだ。
祖母も喜んで大きく手を振ったんだ。

その瞬間、門の両脇に置いてあった銅像から睨みつけるような雰囲気を祖母は感じた。
びっくりして箒を握りしめて震えていると、夫妻が銅像を宥めるように撫でたんだ。
すると睨まれているような雰囲気がパッと消えた。
祖母は夫妻に何をしたのか聞いたけど、やはり日本語がわからないみたいで伝わらない。
その日は帰って、祖母の両親。
俺からすれば曽祖父母だな。
家に帰ってその日体験したことを全部話したんだって。
それでその銅像が何なのか曾祖父母に聞いたわけだけど、二人だって西洋の文化には詳しくない。

それで知り合いの別の洋館の主に聞いてみたんだって。
普通じゃ話せない相手だったそうだが、曾祖父の顔が広かったのが幸いした。
そしたら相手の外国人は「あの家の夫妻はーー崇拝者だ。」って言いだしたんだ。
何を言ったのか聞き取れなかった曾祖父は困った。
それで家に帰ると祖母を呼んでこう言ったんだ。
「あの門の銅像は悪い奴で、悪い子どもを食らうんだ!」
そんなこと言うもんだから、祖母はあの通りの掃除をするのが怖くて嫌になった。
でも掃除はしないといけない。
だから銅像の前を掃除するときは、恐る恐るずっと銅像の方を見ながら掃除したそうだ。
でもやはり何か睨まれてる気がしたんだって。

しばらくして夫妻は母国へ帰った。
そのころには銅像も撤去されたんだと。
以降、祖母が門の前を通っても何も感じなくなったそうだ。
何で銅像が撤去されたかって?知らないなあ。
でも夫妻が居なくなってからも、洋館が異人館として開放されるまではずっと置いてあった、って祖母は言ってたな。

 「話が長くなって悪いな。」
友人の祖母の昔話を聞かされて、俺は辟易としていた。
こんな話をしに態々神戸まできたわけじゃないんだが。
 「たぶんこれがその銅像なんだ。」
大きな箱を目の前で開くと、確かに話通りの奇妙な銅像が二体入っていた。
 「盗んだのか?」
話の通りなら洋館の主が帰ってから盗んだんじゃないか。
 「曾祖父が亡くなって、遺品整理をしていたら出てきたんだ。祖母はこの銅像を見ると嫌な気分になるらしい。だからちょっと出かけてもらったんだ。これ、幾ら位になりそうだ?」
そう言って、友人はにやけた面でこちらを向いた。
お前は昔から鈍いよな。
銅像は友人の方を睨んでいた。

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