怪談百物語#27 取材
ご利用ありがとうございます。
どちらまで行かれますか?
あー、そこですね。
かしこまりました、シートベルトを。
ええ、ありがとうございます。
夜は乗車賃が変わっていますので。
そうですか。
かしこまりました。
それでは出発いたします。
そうなんですよ、結構都会でしょう?
この辺りも昔よりだいぶ発展してきましてね。
うちのせがれも遊ぶ場所が増えたって言って、夜遅くまで帰ってこなかったり。
若いからってあんまり無茶して欲しくないもんですがね。
あ、あそこ見えますか。
あの焼き肉屋がおいしいって評判なんですよ。
本当ですって。A5ランクの和牛を仕入れてるとかで。
まあ私は行ったことないんですけれども。
はは。
いえね、お客さん。
お乗りになられたときは俯いてらしたじゃないですか。
それが町につくと何だか興味深そうに外を見られてましたので、私も口が軽くなっちゃいました。
お客さんは何の御用であちらに?
取材?
というとあれですか、お客さんは小説家か何かで。
ライターさん?ああ、小説やエッセイが多いんですか。
じゃあやっぱり小説家さんで。
やっぱりそうですか。
え?やっぱりって?
そうなんですよ。
かれこれ二十年は経つかな、三十はいかんと思います。
まあ私も駆け出しのころだったんでほとんど覚えてないんですがね。
あの日も夜遅くでした。
あそこに行かれるっていうお客さんを乗せたんですよ。
ええ、そうです。
そのお客さんも小説家さんでした。
なので同じような時間にあそこに行かれるお客さんも、もしかすると。
なんて思いましたが、これが当たったようですね。
いやあ、この仕事も長くやってると人を見る目がつくみたいですね。
はは。
着きましたよ。
ええ、ここがそうです。
この辺じゃ一番有名な観光地ですね。
ええ。
どうかされましたか?
お待ちしてますよ、お嬢さん一人残して帰るには治安が悪いですから。
仰る通りいませんけどね。
誰ひとり。
あの、お客さん。
帰りませんか。
物書きが最後に書くのが遺書なんて、シャレになりませんって。
不思議そうな顔をせんでください。
言ったでしょう。
前にも小説家さんを乗せたって。
いや、似てるかどうかまではわかりません。
もう二十年?
二十二年ですか、そんなに昔のお客さんの顔なんて覚えてないですよ。
ええ、わかっています。
え?
いや、何でもありません。
さあ車に乗ってください。
ほら。
悩みはわかりませんけど、美味しい焼肉御馳走しますんで。
本当においしいもんですね!
行ったかいがあるってもんです。
はあ、またしばらく食べられないと思うと、
お客さん?
寝ちゃいましたか。
お疲れそうでしたしね。
そこのホテルならまだ遠いですし、起こすのも可哀そうですね。
ええ、心配だったんですね。
娘さんでしたか!それで態々。
同じように悩んでらしたんですかね。
ええ、はい。
今回は私も、そうですね。
助けられて良かったです。
お客さんの時は後悔しました。
あの時帰らなければって。
今思えばあんな崖、取材したって何もないですもんね。
ああ、そうですか。
はは。
それでは。
あ、シート。
違いますって。
海だからじゃないですよ。
タクシーっていうと、よく聞くじゃないですか。
消えた後にはシートが濡れてるって。
