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怪談百物語#23 またか

――パリン!

またか。
皿か何かが割れる音。
届かないように鍵も閉めたはずなんだけどなあ。
うちで飼ってる猫はかなり頭が切れる。
子猫のころにうちに紛れ込んできた。
戸締りはしっかりしていたはずなのに。
両親は、どこからか忍び込んできたその子に「ルパン」と名付けて飼うことにした。
当時小学1年生だった私は、弟ができたようで嬉しかった。
家中どこへ行くにも抱っこして歩いた。
ご飯の時は膝の上に乗せて、トイレの時もドアを開けてお話をしながら。
学年が上がるにつれ恥ずかしくなってトイレのドアは閉めることにした。
それなのになぜか入ってくることがある。
ルパンの名前が似合うやつだ。


一人暮らしを始めて三週間。
割られた枚数は四枚。
週に一枚以上のペースで割られている。
実家に置いてきたはずなのに引っ越してきた翌日にはうちにいた。
寂しくなるだろうと思ったのか、実家から抜け出てきたらしい。
なんて優しいんだろう。
でも戸締りはしっかりしていたはずだ。
一人暮らしは怖いから、厳重にしていた。
鍵も二つにふやしたのにどうやって。
謎の多い子だ。
でも来てくれて嬉しい。
もうお爺ちゃん猫だけど、ずっとかわらず可愛いのだ。
もうだっこして歩き回ることはないけど。
足元にくっついてきていつもそばにいてくれる。
――パシャッ
スマホで写真を撮る。
SNSでルパンのやんちゃは『#うちの子のやんちゃ』として人気が出ている。
世界中からうちの子は可愛い言われているのが少し自慢だ。
それに目を離すとすぐに悪戯をするやんちゃだけど、構ってあげられない私が悪いのだ。
お皿を片付けながらそう思う。
新居のために選んだお気に入りのお皿は残り少なくなっていた。
「はぁ。」


――パリン!
ふあ。
寝ぼけた朝に、このひと月で何度も聞いた音が響いた。
またか。もういい加減にして欲しい。
鍵はしっかり閉めたし、お皿も動かないように固定するグッズを百円均一で買ってきたのに。
やっぱり安物じゃダメかな。
リビングに入るといつも通りお皿が割れていた。
その向こうにはうちの猫、ルパンがしっぽを立ててそっぽを向いていた。
もー、知らんぷりしてもダメだからね。
――パシャッ
現場にルパンがいるのはめずらしい。
割れたお皿と一緒に写真を撮ってSNSにのせる。
動くと危ないので、じっとしている間に抱っこして移動させる。
「グゥゥゥゥ……。」
唸ってもダメ、許さないからね。
キッチンと繋がるリビングに移動して、ケージに入れて鍵を閉める。
お皿を割られないように買ったケージだが、次の日には抜け出された。
だから何の意味もないと思うけど、一応ね。
「はぁ。」
今日もまた片付けか。
怪我をしないように慎重に破片を拾う。
それにしても、あんなに割ってるのにルパンには怪我ひとつない。
やっぱりうちの子は賢いなあ、なんて。親馬鹿かなあ。


さっきの写真、皆みてくれたかな。
片付けも終わりスマホを手にリビングでゆっくりした時間を過ごす。
「うわ、バズってる。」
やっぱり本人が写ってるとすごく人気が出るんだなあ。
ルパンかわいいしね。なんて親馬鹿なことを考えていた。
写真には『いいね』といっしょにたくさんのコメントがついていた。
『かわいい!』『犯人知らんぷりしてて草。』『犬のおまわりさん呼ばないと。』
ルパンの悪戯を好意的に受け取ってくれたみたい。
『早く移動させないと怪我しちゃう!』『割れたの踏んだら危ないよ。』
心配してくれる人達も多い。ありがたいなあ。
「興奮して暴れると危ないので、落ち着いてから抱っこして移動させました。ご心配ありがとうございます。っと」
返信しながら次々にコメントを見ていく。
『猫ちゃんの奥。』
最後のコメントだ。
何だろう、といぶかしみながら写真を見直す。
ルパンの奥はキッチンで、朝も早かったから暗くて見えにくい。
SNSを見るのをやめて、写真加工アプリで少し明るく設定してみる。
少し明るくなると、キッチンと食器棚の隙間に丸い影が見えた。
あんなころに何も置いていない。
拡大してみると見慣れない顔があった。
顔?
キッチンと食器棚の隙間から人の顔が上半分だけ生えていた。
背筋が凍るように冷たい。
ルパンを出して胸に抱きしめ、財布とスマホを手に取り急いで家を出る。


着の身着のままで実家に帰り両親に理由を話して写真を見せる。
二人ともこの手の話は全く信じないが、しばらくうちにいなさいと迎えてくれた。
急にごめんね。でもあの家にいるのはもう怖くて。
もしかすると今までお皿を割っていたのもルパンじゃないかもしれない。
あの時唸っていたのも、守ろうとしてくれてたのかも。
2Fにある昔と変わらない私の部屋。
お母さんがずっと掃除していてくれてたらしい。
夜になると、その部屋で私は可愛いルパンを抱いて寝た。
なにかあればきっと守ってくれる。
お父さんだって、お母さんだっているんだ。
大丈夫。
不安としばらく戦いながら私は眠りについた。


――パリン
いつもの音に目が覚める。
まさか、ついてきたの?
転びそうになりながら階段を駆け下りて、1Fのリビングのドアを開けた。
「おはよう。ルパンは相変わらずやんちゃだね。」
「湯呑み割られちゃったよ。まいったなあ。」

テーブルの上にはルパン。
下には割れたお父さんお気に入りの湯呑み。
「にゃご。」
テーブルの端で猫パンチのポーズを崩さず、こっちを見ながら自慢そうにひと鳴きした。

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