怪談百物語#76 発情期
――うにゃああ
――うにゃああ
外から猫の鳴き声が聞こえる。
春の初め頃になると、近所の猫が発情しだす。
あいつらのうちどれだけが相手を見つけるんだろうか。
彼女欲しいなあ。
ひもじい思いを死ながら牛丼を食べていると、ベランダを白い影が横切る。
いつもの猫だ。
白い猫はその見た目からか町内の人間から『ユキ』と呼ばれている。
俺がここに越してきたときからいる。
つまり最低でも十二歳のお爺ちゃん猫、もう相手を見つける必要もないだろう。
――なおああん
特徴的なかすれ気味の声。
ユキだ。
お盛んだねえ。
鳴き声を聞きながら、コメの一粒一粒まで綺麗に食べ終えて流しに持っていく。
洗い物は少ないから明日に回そう。
部屋で服を脱いでから脱衣所へ向かう。
色々面倒でその辺に脱ぎ散らしてしまう。
一人暮らしでついた悪癖だ。
シャワーでシャンプーを流していると、窓の外に白い影が見えた。
ユキか?
こんなところにいるなんて珍しいな。
体も洗い終えたのに、ユキは一向に動く気配がない。
今日は春先にしては少し冷える。
風呂場の窓は温かいからな。
浴室を洗い終えてもユキはまだ動かない。
最後に換気をしたいのだが、しょうがない。
窓をコンコンと叩いてどいてくれるように邪魔をする。
――なあああん
邪魔をするなとでも言いたげな鳴き声は、いら立っているのかいつもより低い声。
しょうがない。
明けてしまえばユキもどいてくれるだろう。
――ガラガラ
窓を開くと雪がこちらを振り向いた。
――なあああん
猫の大きさをした真っ白な人の顔。
ユキじゃない。
――なあああん
猫の鳴きまねをしてそいつは消えた。
あの白い顔も発情期なんだろうか。
あまりのことに、思考がずれてしまった。
翌日仕事に出かけると、ユキはいつもの家ですやすや寝ている様子。
『ユキ専用』と書かれた発泡スチロールを覗き込むと、ユキと毛並みの綺麗な若いハチワレが並んで寝ていた。
やるじゃん、ユキ。
