見出し画像

怪談百物語#73 家じゃない

うちの近所に霊が出ると噂の空き家がある。
それ、親父の持ってる物件なんだ。
元は親戚が住んでたんだが、そこの息子夫婦がその親戚と同居するために引っ越した。
それで不動産やってる親父に安く売ってくれたんだと。

霊が出るっていうのは嘘だ。
住んでた親戚は今も元気だし、数代遡ってもずっと親戚の土地だ。
誰が死んだとか昔は墓場だったとかはありえない。
それなのに。根も葉もない噂のせいで肝試しに来る奴らがいる。
無断で土地に入ろうとするし、酷いときは窓を割ったり家具を盗んだりする。
何か被害があれば父がすぐに通報している。
慣れたもんだ。
監視カメラが付いてるからすぐに捕まる。
なのに肝試しに来る奴らは一向に減らない。
本当にどうにかして欲しい。

ということで親父からこの家に住むように言われた。
日給三千円。
安いけど、光熱費は親父が支払ってくれるし。
暖房もテレビもガンガンつけられる快適な暮らし。

デメリットは、友人がいないから寂しいこと。
一人で暮らすには広すぎる二階建て。
あとは、年中肝試しに来る奴らの相手をしないといけない。
これが本当に面倒。
寝てるときに来られると、人の気配がないからか家の中にまで入ってくる奴がいる。
家電を見て「あれ、おかしいな?」と思って帰る奴らもいるけど。
全員通報。
本当に迷惑してる。
でもしばらく暮らして慣れてくると、悪戯心が湧いてくる。
そんなに肝試ししたいなら協力してやろう。

思い立ったら行動は早い。
長い髪のカツラに白装束。
雰囲気づくりのスピーカーと照明、全て通販で買い揃えた。
次の肝試しはいつかと楽しみに待っていた、その日の夜。
早速やってきた。
高校生だろう幼い顔。
電気を消した暗い部屋を、窓から窺う四人組。
俺は窓際の壁にこっそり近づく。
準備は万端だ、青い照明をつけた瞬間。
 「うわああああ!」
 「でたああああ!」

走って逃げていく姿に笑いが止まらない。
この調子でどんどん脅かしてやろう。

飽きた。
何度か脅かすうちに、毎日誰かしら肝試しに来るようになった。
毎日やってると面倒になってくる。
ただ、家の中に入ってくる奴らが減ったのは良かった。
すぐに捕まるとは言ってもプライベートエリアに踏み込まれるのは腹が立つ。
今日も誰か来るんだろうか。
連日、夜遅くに来る奴らを追い返すため寝不足の日々。
今日はもう寝よう。
誰も来ないことを祈って。

――パリン
やばい。
突然の音に目が覚めた。
こんな日に限ってたちの悪い奴が来た。
ガラスを割って侵入する奴らは大体柄が悪い。
スマホを手に取り警察に通報。
後は襲われないように隠れて、警察が来るのを待つだけ。
――ドタドタ
 「二階の部屋も見て行こうぜえ。」
階段を昇る音と嫌な言葉が聞こえた。
見つかればどうなるか。
話が通じる奴なら良い、でもそうじゃないなら。
窓から逃げるか。
外を覗くと、侵入者の仲間らしき男が二人。
塀の外に立っているのが見えた。
やばいやばい。
どうする。
――バギッ
隣の部屋のドアが壊されたのか、とんでもない音が聞こえた。
もうこうするしかない。
俺はタンスからカツラと白装束を取り出した。

 「外れかよ。こっちの部屋にはいるのかな、っとお!」
――バギッ

ドアが壊れた。
 「うわあああああ!!」
全力で大声を出して侵入者の前に飛び出す。
男が一人と女が二人、まぬけな顔でボーっと突っ立っている。
驚いたのか声も出ないらしい。
もうひと頑張りだ。
いや、視線が合わない。
三人とも俺の後ろを見ている。
なんだ?
同じ方を振り向くと
 「でたあああああ!!」
無言で立ち竦んでいる三人を連れて急いで部屋を出る。
階段を滑り落ちながら玄関へ走る。
はあ、はあ。
何だよあれ。
俺と同じ格好をした、トンボみたいな目の男が俺の後ろにいた。

その場で侵入者の仲間と一緒に震えていると、通報した警察がいつものように津得て行こうとした。
俺は怖くて一緒に連れて行ってk売れと頼むと、しぶしぶ事情聴取と言う形でパトカーに同席させてもらえた。
翌朝になると着の身着のままで実家へ帰った。
親父に昨夜あったことを話してお祓いすることをすすめた。
無視された。

その後しばらく、俺は実家に世話になった。
その間にあの家は買い手が決まったらしい。
あの夜のことを話したのかと親父に聞いたが、話していないらしい。
大丈夫って言うけどさ、それでいいのかよ。

いいなと思ったら応援しよう!