怪談百物語#80 しらんかお
今日は彼女を連れて実家へ挨拶しに行く。
緊張する彼女は、しっかりとしたパンツスーツを着ている。
少し堅いんじゃないかと伝えたが「これが勝負服なの。」と譲らない。
意思まで堅い。
実家は今の家からそんなに離れておらず、同じ沿線にある。
彼女の心構えができる前に着いてしまった。
二人で選んだ手土産を渡すと居間に通された。
緊張した三人が黙って座っている。
俺は久しぶりの実家が綺麗に整頓されていることにビックリした。
普段ならこの辺にリモコンやお菓子の袋が散乱しているのだが。
挨拶を終えると、両親と彼女の歓談が始まった。
知らぬ間に最初の堅い空気がほぐれていた。
このまま結婚したとすると、うちは共働きになることを話した。
両親も共働きだからこれについては理解を示してくれた。
子どもは折を見て考えることも伝えた。
すると母が俺の子どもの頃のアルバムを持ち出してきた。
「子どもは可愛いのよ。」だと。
止めてくれ、俺を説得の材料にするんじゃない。
彼女も興味津々にするな。
止めても聴かない。
父も乗り気だ。
もう好きにしてくれ。
高校生の俺はすかしたで表情でかっこつけていた。
こんな時期もあったな。
中学生の俺は初めてできた恋人とベタベタしていた。
彼女は怒るかと思って顔色を窺うも、楽しそうに目を輝かせていた。
「へえ、こんな子が好きだったんだ。」
彼女は気付かないのだろうか。
自分によく似た雰囲気の女子を指さしていることに。
今もそうだ、とは口が裂けても言えない。
小学生の俺は半袖短パンで寒そうにしていた。
馬鹿だった。
こんな子いたいた、と彼女と両親が笑いあっている。
そんなに昔からこの格好の小学生は生息していたのか。
幼稚園児の俺は寂しそうにしていた。
両親が共働きで、迎えに来るのは祖父か祖母だった。
周りの子達が羨ましかったのを覚えているよ。
そう伝えると両親たちは微妙な表情を返す。
まあそうなるよな。
全てのアルバムを見終わった。
「どれも可愛いね。」
妻になる人はそう言って俺に微笑んだ。
それにしても誰も気づかないのだろうか。
俺が映る写真、どれもこれも。
俺の傍に見覚えのない女性が映っている。
幼少期はともかく、高校生の頃なんてつい最近のことだ。
アルバムには記憶に新しい場面が並んでいる。
入学式、文化祭、卒業式。
記憶の中にこの女性の姿はなかった。
両親も彼女もこの女性が気にならないのか、何も言及しない。
見えていないかのように流している。
俺の頭か目でもおかしくなったんだろうか。
外が暗くなるころ実家をお暇して、ついでに彼女の家まで送って帰る。
道すがら彼女はうちの両親を良く言ってくれた。
気持ちがとても嬉しかった。
あれから俺達は結婚した。
今では子どもが二人いる。
下の子は一歳、上の子はもうすぐ三歳になる。
今年から幼稚園に入る予定だ。
「あーかわいいねー!お写真撮ろっか。ほーらこっち向いてー。はいこっちだよー。偉二人ともいねー!」
公園でスマホを手に、一瞬も漏らさないように写真を撮る。
妻が働き俺が子どもを見ることになった。
実家が近所なんてたまに頼ることもある。
――パシャ
良い写真が撮れた。うちの両親は「孫の写真はすべて現像しろ!」と煩い。
今日もコンビニに寄って現像して帰る。
懐事情もあるので、選りすぐりの写真だけ。
実家のアルバムはどんどん充実して増えている。
そのどれにも俺は映っていない。
俺が映る写真には、未だにあの女性が映りこむ。
俺以外の誰にも見えない、知らない顔のあの女性が。
