怪談百物語#81 またの機会に
左を見ろ→ こっちは右だ
引っ掛かりましたか?
お詫びと言っては何ですが、俺が体験した話でも聞いていって下さい。
その夜、俺達は地元で有名な廃旅館へ肝試しに来ていた。
近隣で車を持ってる若い奴なら、大体来たことがあるくらい有名な場所。
俺達にとっては夏の風物詩みたいな扱いだ。
人気がある場所なので、車が何台か止まっている日もある。
空いていた方が怖くていいんだけど。
放課後、一足早く免許を取った友人に乗せられてその廃旅館へ向かう。
運転席には友人、助手席には俺。
後部座席にはクラスで仲の良い女子を二人乗せていた。
「車持ってるんだー?今度海連れて行ってよ。」
「いいけど、海ってそんな楽しいか?」
「日焼けとか俺嫌だよ。」
廃旅館への期待なんて誰もしていない。
この四人でも女子一人以外は既に経験済みだ。
どこに何があるか知っているのは当たり前、自分で書いた落書きがあるくらい俺達は行き慣れていた。
その日はたまたま人気がなかったのか、入れ違いに一台帰っていった他には誰もいなかった。
「さっきの奴、たぶん同じ学年の男子だよな?」
「男子二人で何しに来たんだろうね。」
「え?一人だったな。」
「二人だったよ。ねー?」
男子と女子で意見が食い違う。
名前を思い出そうとするが、誰も思い出せない。
同じクラスの奴ならともかく、他のクラスとなると記憶があやふやだ。
言い合っているうちに辺りも暗くなってきた。
ちょうど良い雰囲気だ。
俺と友人は、さっさとまわって友人の家へ行こうと思っていた。
友人は大学生の兄と同居しているおかげで都、部屋の都合がつきやすい。
今日もお兄さんに外泊を頼んで部屋を貸し切ってもらった。
この後は朝まで遊ぶ予定だ。
たまに友人が俺の家に泊まりに来るときはお兄さんが使っているそうだ。
初体験の子の怖がる姿が新鮮で面白い。
「もう無理もう無理。」
手を引いて進もうとするが全く動かない。
「もうちょっと行ったところに怖いのがあるんだって。」
「今教えて。わからないと進めない。怖い、無理。」
業を煮やしたもう一人の女子が簡単に説明してくれた。
目的地の部屋の壁には、有名な落書きを模した言葉が書かれている。
正面には『右を見ろ』
右側には『後ろを見ろ』
後ろには『下を見ろ』
下には『上を見ろ』
上には『正面を見ろ』
正面には『振り向いちゃ駄目』
そんな落書きがある。
俺と友人が以前書いたものだ。
結構雰囲気があって、肝試しに来た奴らには大人気だ。
何とか女子を説得して目的の部屋に着く。
結構前に書いたものだから、今では変な絵で上書きされてしまっている。
全然読めないわけじゃない。
何とか読み取れるだけマシだな。
「読んでみなよ。」
「えー、怖。私?読むけど。」
さっき止まっていた女子が嫌々ながらも読み上げる。
ネタバレされて少し安心感があるのかもしれない。
「えっと『右を見ろ?』。読みにくいなあ。これは『後ろを見ろ』かなあ。」
次々と落書きを読んでいく。
恐がりながら読む女子を見て、俺達ともう一人の女子はニヤつきを隠せずにいた。
「下の次は上ね。それで正面を見ると。」
『階段を昇れ』
落書きは上書きされていた。
読み上げていた女子は固まって動かない。
俺たち三人はワクワクが止まらない。
「昇ってみようぜ。」
「無理、もう無理。絶対行かない。もう帰ろ?ね。」
車を運転できるのは友人だけ。
その友人が乗り気なので、女子も仕方なく階段を昇る。
下で待っているかとも聞いたが無言で首を左右に振られた。
流石に一人で待つのは俺ですらごめんだ。
通い慣れているとはいえ、雰囲気はしっかりと怖い。
階段を昇ると、正面の壁には
『階段を昇れ』
と書かれていた。この上は屋上だったはずだ。
そこへ案内する気だろうか。
俺は動かない女子の手を、友人は乗り気な女子の手を引いてゆっくりと階段を昇っていく。
屋上へ続くドアにも落書きされていた。
『入れ』
右手が動かない。
女子が両手でしがみついていた。
「無理無理無理、降りよう。もう降りよう。怖いー。」
本島に怖がっているらしく顔から血の気が引いている。
歯がカチカチと鳴る音まで聞こえてきた。
すごい顔だ。
「お、開いたぞ。」
友人ともう一人の女子は既に屋上へと上がっていた。
「俺達も行こっか。二人だけだと怖いし。」
「怖いー。無理ー。」
引っ張って転ぶと危ないからか、女子も無理はせずに階段を昇ってくれた。
ごめんね。何があるのか気になるんだ。
屋上のドアを通ると、床に
『進め』
と書かれていた。四人揃って進んでいく。
正面には破れた金網と床に書かれた落書きがあった。
『飛び降りろ』
俺達は帰ることにした。
「だから降りようって言ったのに。」
グスグスと泣く女子を慰めながら俺達は車に乗り込んだ。
屋上には落書きの他に、靴が一足置いてあった。
俺達の学校の指定靴だった。
