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怪談百物語#31 今時のCD

会社帰りの途中コーヒーを買いにカフェスタンドへ寄る。
途中歌声が聞こえた。
澄んでとおる男性の声。
歩道橋の下で街頭ライブを行う姿が見えた。
職場ではずっと有線が流れているのに、聞いたことのない歌。
流行りの曲調に合わせて歌う彼のオリジナル曲だろうか。
自然と足が歩道橋に向かう。
周りの人も、通りすがりの人も少しずつ集まってきた。
人ごみの中央で歌う男性は周りを気にせず、静かに歌い続ける。
私達は彼の歌に聞き入っていた。
日常に安らぎを求めて集まった。

歌が終わると彼はCDを売り始めた。
このご時世に?
今時、QRコードでYoutubeや楽曲配信サイトを紹介するのだと思っていた。
懐かしい気持ちでCDの列に並ぶ。
――ありがとうございます。
そう言って手渡してくれた彼の笑顔、声に私は惹かれてしまった。
また機会があれば聴きに来よう。
それ以来、会社帰りにはコーヒーを手にあの歩道橋舌を見て帰るようになった。

初めて聴いたあのライブから、3か月が過ぎた。
月に2度、金曜日の夜に彼はここで歌っていることがわかった。
あれから何度も聴きに来ている。
今夜も私と同じように彼を囲む人の中には、みなれた顔がちらほら。
ライブ後はCDの販売が始まる。
来る度に新しいCDを出している。
精力的に活動している彼を応援するつもりで、毎回1枚買って帰る。
残念ながら私はCDプレイヤーを持っていない。
ジャケットに写る彼の写真を棚に飾っているようなものだ。

うちの父はデリカシーがない。
部屋で彼の映るジャケットを眺めていると、突然入ってきた。
壁に飾るCDを見て一言、懐かしいななんてジロジロ見だす。
気恥ずかしさもあってか少しイライラする。
ちょっと来て、とリビングまでついていくと父は仕事で使うノートパソコンを持ってきた。
家族みんなで彼のCDを聴くことになった。
初めてCDで彼の歌声を聴ける喜びと、家族に自慢できる機会。
顔がにやついているのを自覚しながら父にCDを渡す。
これ、DVDなの?
パソコンの画面には動画ファイルが映っていた。
ちょっと待って、と声をかけるも父は気にせずファイルを再生した。

彼の歌声が聞こえる。
その裏でかすかに聞こえる、掻き消えそうな小さな声。
画面にはワンルームの小さな部屋が映っている。
女性の一人暮らしだろうか。
ワンセットの洗濯物が部屋干しされている、生活感のある部屋。
見ないようにしていた画面の中央が目に入るt。
顔は打撲で崩れている。
手足は骨の原形をとどめていない。
歯の無い口で叫ぶように、たすけてとかすれた声をあげている。
喉はつぶされているようで

父がノートパソコンを閉じる。
見ちゃいけない、一言呟いてリビングを出ていく。
わきに抱えたパソコンのスピーカーからは、彼の歌とたすけてという声が流れ続けていた。
母は警察を呼んだようで、私達は取り調べを受けることになった。
DVDを確認、事件として取り扱われることになった。
画面に映る彼は誰か、女性は誰か。
どこで手に入れたのか。
彼にもう会わないようにと注意されて、私達は家に帰された。

あれから頻繁に警察がうちに来るようになった。
彼の情報が聞きたいらしく、私はいつも応対させられている。
毎回、動画の確認をさせられながら事細かに聞かれる。
もう話すこともないのに。
疲れてしまった。

次の週の金曜、会社帰りにいつもの場所で彼を待つ。
彼の歌声と笑顔に癒しを求めて。
あの動画は悪戯か何かだと信じて。
彼は来なかった。
逮捕されてしまったんだろうか。
寂しい気持ちで帰宅すると、玄関から彼の歌声が聞こえる。
また警察が来て動画の確認でもさせられているのだろうか。
父も大変だなと思って玄関のドアを開ける。
靴が一つ多い。
カジュアルなスニーカー。
――ただいま。
リビングで彼が歌っていた。

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