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怪談百物語#64 化かし狸

この村にはもういられない。
仲間はみんな殺された。
生き残ってるのは私だけだ。
母さんも父さんも、みんなみんな殺された。
巣に帰っても誰も戻ってこない。
逃げなくちゃ。
ひと晩走れば隣の村に着くってお母さんが言ってた。
ありがとうお母さん。
お母さんが教えてくれたおかげで、私は生き延びられる。
全力で駆けだす私を人間が捕まえる。
はなせ!
殺されてたまるか!

 「先生、あの子また暴れてるんですか?」
カルテを手に、最近赴任してきた若い先生が気遣わしげに問いかけてくる。
 「ああ、村に帰ろうとしてるんだよ。向こうじゃ手に負えないからここに連れてこられたんだけどね。」
家に帰りたい気持ちはわかるけど、正気に戻らないと生きづらいのはあの子の方だ。
私達は少しでも早くあの子を治療しなければならない。
自分の娘と同じ年頃の子を苦しみから解放してあげたいんだ。
 「そういえば、あの子は何でここに連れてこられたか先生はご存じですか?」
ああ、この先生にはまだ言ってなかったか。
 「ご家族の方が言うにはね、あのこは狸に化かされたそうなんだ。」
――自分を狸だと思ってしまうように、ね。

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