怪談百物語#51 人形
フランス旅行をしていた時、土産物屋で嫌な話を聞いた。
良かったら聞いていくか?
日本に帰る前、土産物屋に寄ったんだ。
そこで可愛らしい人形を見つけてな。
当時は彼女だったんだが、嫁さんに良いかと思って買うことに決めた。
ちょっと予算をオーバーしてたんで店主に値切り交渉を試みた。
その結果、良い値で買うことができた。
でも50cmを越えるサイズのアンティークドールだ。
持ち歩くのは難しい。
郵送してもらおうと思って、店にあった郵送カードに住所を書いて渡した。
住所をみて店主は興奮して俺に話しかけてきたんだ。
店主は生粋の人形マニアらしく、俺が日本人だと知ると日本人形について色々聞きたがったんだ。
参った、俺は日本人形については全くと言っていいほど知らない。
なので有名な怪談を話した。
髪が伸びるだとか、目が動くだとか。
すると店主もフランス人形に関する怪談を俺に教えてくれたんだ。
ヨーロッパは昔、封建主義と言って王様やお貴族様が主体の国だったそうだ。
聞いた限りだと日本の武士やお殿様やお姫様とかそんな感じだと思う。
地方によって治める貴族が違うから、一般人の生活レベルも結構差があったんだってさ。
文句を言おうにも一般人なんてすぐに殺される程度の人権。
王様にバレなきゃ何したって良い、そんな権力があるのがお貴族様なんだと。
本当かどうかはわからんよ?
店主が言ってたことだからさ。
ここまでが前置き、それでここからが本題なんだ。
店主の地元はすごく良い貴族が領主として治めてたんだそうだ。
人が多く住んでいて、治安が良いし徴税も少ない。
他の地方と比べて段違いに住みやすい町だったんだと。
その領主が治める町に、腕の良い人形師が住んでたそうなんだ。
そいつの作る人形は国中で大人気。
どのお貴族様も欲しがるから領主様も鼻高々。
その人形師を家に招いたり、厚遇していたそうだ。
その領主様は高齢だが子に恵まれなくてな。
人形師の作る人形を我が子のようにかわいがってくれていたんだ。
そんな中、喜ばしいニュースが町に流れた。
領主様にお子様が生まれたんだ。
女の子だったそうだが町中が喜んでな。
人形師もその祝いに人形を作ったそうなんだ。
美しい女の子の人形。
そうだなあ、あれを見てくれ。
そう、旅行中に買った人形だよ。
ビスクドールって言うんだ。
アンティークだけど綺麗な顔してるだろ。
まるで生きてるみたいだろ?
まああんな感じの人形を誕生祝いに贈ったそうだ。
それからしばらくして人形師に奥さんができてな。
結婚してすぐ、二人の間に子どもができたんだ。
人形師には何人かお弟子さんがいてな。
腕の良い奴に工房を任せて、自分は半分引退しようかって話になったんだ。
ヨチヨチ歩く我が子がかわいかったんだろうな。
俺も親だから気持ちはわかるよ。
ずっと一緒に居られるように時間を作るためだったんだろう。
引継ぎの準備が進んでいたある日、領主様から小さな袋と共に連絡が来たんだ。
袋を見ると手足がバラバラになった人形が入っていた。
使いの者から話を聞くと「子どもが人形を壊してしまった。新しい人形が欲しい。」という。
それも生きているような精巧に作られた人形が、だそうだ。
子どもの我儘だが、人形師はその要望に応えようと寝る間も惜しんで人形を作り続けた。
可愛い我が子と遊ぶ間も惜しんで、な。
でも、できなかった。
何体かできた人形を贈ったんだが、どれも領主様の子どもは気に入らなかったらしい。
人形師もわかってたんだ。
自分の腕じゃ生きた人形なんて作れないってな。
それじゃどうしたかって?
渡したんだ。
人形の代わりに、生きた我が子を。
領主様も申し訳なさそうにしてな。
領主様自ら人形師の家にまできて「養子として大切に育てさせていただく。」と告げると、大切そうに腕に抱いて館へ連れて行ったそうだ。
領主様が見えなくなってから、人形師夫婦は泣き喚いた。
自分のふがいなさに、腕のなさに。
逃げ出そうかとも考えた。
でも、子どもがうちよりも裕福な家で大事に育つならと思って耐えた。
良い領主様と言えど世間体がある。
逃げ出した人間を許すわけにはいかない。
人形師夫婦は、人形を作り続けた疲れもあったんだろう。
その日はそのまま泣き疲れて寝てしまったんだ。
夜になって家の前でゴソっと物音がした。
人形師は目を覚まして様子を見に行った。
するとそこには一枚の紙と一緒に、小さな袋に包まれた何かが置かれていたんだ。
部屋に持っていき、燭台に火を灯した。
手紙には一言「すまない。」とだけ書かれていた。
人形師は小さな袋に手を掛けた。
――ゴトッ
小さな袋には、手足を亡くした我が子入っていた。
これで終わりだよ。
嫌な話を聞いたもんだ。
あんた、怪談が好きなんだろ?
良かったらどこかで話してくれよな。
