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怪談百物語#54 おかえり

行方不明になっていた友人が帰ってきた。
大学にいれば失踪するやつなんてたくさんいる。
経済的な理由で実家に帰ったり、良い仕事が見つかって中退したり。
何かしらの事件に巻き込まれたり。
よくあるうちの一人だ。
連絡もなく消えたのは悔しかったが、それだけ。

講義が終わって教室を出る時、見知った奴に呼び止められた。
昨日会ったばかりみたいな屈託のない笑顔で肩を叩かれた。
 「おう、学食行こうぜ。おごるからさ。」
笑みの奥に、はっきりとは言えないが引っ掛かりが見えた。
無言で頷き後をついていく。
一限終わりの学食にはすでにチラホラと学生が座っていた。
特に何か頼むわけでもなく話したり、課題をこなしているように見える。

固定メニューのAランチを手に空いた席に着く。
手を合わせて食事を始めると、友人が話し出す。
 「なんかこうやって食べるの久しぶりな気がするな。」
は?と呆気にとられた顔で見返す。
箸から豚の生姜焼きが落ちて皿に戻る。
お前、何ヶ月サボってたと思ってるんだよ。と呆れたように吐き出す。
茶碗を持ちながら、意味の分からない表情で友人は咀嚼しながら話す。
 「は?はこっちのセリフだよ。一日もサボってないし、遅刻もゼロだぜ。」
馬鹿にしてんのか、と少しイラついたように返された。
偶然会わなかったのか?
そんなことあるか?
奇妙に思いつつも奢られている身なので、話を合わせて謝っておいた。

面倒な講義で出された課題の話になった。
期限が短い割にやたら大量のレポート提出を強いられる。
その講義の教授は、学生の中では悪い意味で有名だ。
OBの先輩曰く、昔は一度でも講義を欠席すれば出席点がゼロにされていたという。
必修科目でなければ迷わず避けていた講義だ。

出されている課題の内容が違った。
友人の課題は聞いたことのない内容で、友人もこちらの課題をお菓子な目で見ている。
「手の込んだドッキリだな。」と一笑に付されたが、どうにもおかしい。
早めの昼食を終えると、二人で三限まで図書室で課題のレポートを進めることになった。
内容が違うからお互い手伝うことはできない。
隣の席に座って別々の書棚に向かった。

二限終了のチャイムが鳴った。
そろそろ休憩にするか。
友人にメッセージを送るが返信がない。
資料探し夢中になっているのだろうか。
友人が向かった書棚の辺りを探すが、誰もいない。
あの課題なら資料はこの辺のはずだ。
一応図書室をぐるっと見て回ったが、どこにもいない。
メッセージの返事もまだ届かない。

図書室を出て、売店や学食も覗くが姿が見えない。
また連絡もなく消えたんじゃないかと思うと、一度目の失踪の時を思い出す。
あんな思いをしたことも知らずに二度目も同じことの繰り返し。
いい加減に腹が立つ。
怒りをぶつけようと電話をかける。
 「おかけになった番号は現在電源が入っていないか、電波が届かない場所にあります。」
お決まりのガイダンスが流れた。
あいつ、またかよ。
呆れて声も出ない、どっと疲れた。

出しっぱなしだった資料を片付けに図書室に戻る。
おかしなことに隣の席にあったはずの友人の資料は綺麗に片付けられていた。
手の込んだドッキリはそっちじゃないか。
関心すらして、三限の教室に向かう。

それからしばらく、友人はまた姿を消した。
一緒に取っていた講義の教室を見回しても見つからない。
あの日話した面倒な講義にも顔を出していないようだ。
仲の良い教授に聞いても「最近見ないね、元気してる?」と逆に聞かれてしまった。

一限の講義が終わり、教室を出ようとすると肩を叩かれた。
友人の二度目の失踪以来、講義の始まりと終わりには教室中を見回す癖がついていた。
だから、こいつは絶対に教室に居なかった。
 「よう、学食行こうぜ!」
相変わらずの屈託のない笑顔に毒気を抜かれた。
もういいよ、それで。

学食でいつものAランチを手に空いた席に着く。
今日はこちらが奢る番だ。
こいつは一体どこで講義を受けているのか、講義の愚痴はほぼ一致する。
課題の内容はまた食い違っていた。

ドッキリじゃないなら何が起きているんだ。
何がどうなっているのか全くわからない。
何時いなくなるかわからない友人に、これだけは言っておかないといけない気がした。
 「おかえり。」
友人は豚の生姜焼きを咀嚼しながらいぶかし気に片眉を上げ「ただいま。」と返してくれた。
それでいいさ。

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