カットオフの数字に、振り回されかけた日
「TUGが13.5秒。カットオフを上回っていないので、まだ退院は難しいですね」——そう言いかけて、患者さんの顔を見て、言葉を飲み込んだことがあります。
その方は、自宅で何十年も、その暮らしを続けてきた人でした。数字は「平均より遅い」と言っていた。でも、歩き方は安定していたし、その人の生活には、十分だったんです。
カットオフは「大勢の目安」、その人の答えではない
カットオフは便利です。スクリーニングには欠かせない。でも、あれは「大勢を平均したらこのあたり」という線であって、目の前の一人の答えではありません。
秒数だけでなく、動作が安定しているかどうか——そこも同じくらい大切な視点だと、僕は考えています。速くても不安定な動きより、少し遅くても安定した動きのほうが、その人の暮らしを支えることができる場面があります。
数字で線を引く前に、考えるようになったのはこれです。
「この人は、何ができれば、困らないのか」
トイレまで安定して行けたらいい人。買い物に行きたい人。孫を抱っこしたい人。ゴールが違えば、同じ秒数の意味も変わります。
評価は、人を数字の枠に当てはめる道具ではありません。その人の暮らしを支える"根拠"を作るための道具です。
数字は強力です。だからこそ、振り回されないように。安定した動作があるかどうか、その人に必要な生活ができるかどうか——主役はいつも、目の前の人のほうです。
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