小児・思春期における炎症の軌跡と,成人期における精神障害および心代謝性障害のリスク
Trajectories of Inflammation in Youth and Risk of Mental and Cardiometabolic Disorders in Adulthood.
Palmer ER, Morales-Muñoz I, Perry BI, et al.
JAMA Psychiatry. 2024 Nov 1;81(11):1130-1137. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2024.2193.
〈背景と目的〉炎症と精神障害(うつ病,双極性障害,精神病スペクトラム症,不安症)との間に関連があることを示すエビデンスは多い。また,幼少期の炎症が成人後の精神障害および心代謝障害のリスクと関連していることも示されている。しかし先行研究の大半では,1時点でしか検討が行われていないためにマーカーの動的な経時的変化を見落としていたり,転帰が一つしか検討されていないために複数の転帰が炎症の影響を同時に受けていることを見落としているかもしれない。
そこで,本研究では小児期~思春期における炎症と精神障害・心代謝障害との縦断的な関係を検討する。慢性的な軽度の炎症が認められる小児・思春期では精神障害・心代謝障害の発症リスクが高いという仮説を立てた。
〈方法〉英国の出生コホート研究であるAvon Longitudinal Study of Parents and Children (ALSPAC)のデータを使用して縦断的コホート研究を行った。1991年4月1日~1992年12月31日に出産予定のAvon在住の妊婦に研究への参加を呼びかけた。組み入れ時の妊娠件数は14,541件であったが,7年後に追加募集を行い,解析対象となったデータは合計15,447件であった。
炎症については,9歳・15歳・17歳の時点でC-反応性タンパク(CRP)値を測定した。
精神障害の転帰は24歳時の精神障害(精神病体験,精神病性障害,うつ病,全般性不安症)と,22~23歳時の軽躁症状とした。心代謝の転帰はグルコース・インスリン感受性とし,Homeostasis Model Assessment (HOMA2)得点を用いた。
二値転帰については,各転帰に対してロジスティック回帰分析を行った。オッズ比(OR)および95%信頼区間(CI)は,参照群と比較した場合の転帰のリスク上昇を示す。連続転帰の解析には線形回帰分析を用い,β係数は参照群と比較した場合の転帰のリスク上昇を示す。
〈結果〉6,556名を組み入れた。炎症の軌跡は,CRP値が持続的に低い群(参照群,6,109名,コホートの93%),持続的に高値で9歳時にピークを迎えた群(ピークの早い群,197名,3%),持続的に高値で17歳時にピークを迎えた群(ピークの遅い群,250名,4%)の3群に分類された。
ロジスティック回帰では,ピークの早い群の参加者は参照群と比べて,24歳時の精神病性障害(OR:4.60,95%CI:1.81~11.70; p=0.008),精神病体験(OR:2.30,95%CI:1.33~3.97;p=0.02),重度のうつ病(OR:4.37,95%CI:1.64~11.63;p=0.02)のリスクが高かった。ピークの遅い群と精神的な転帰の間には関連は認められず,また,軽度のうつ病,軽躁,全般性不安症との間にはいずれのCRP値の群にも関連が認められなかった。
線形回帰分析では,ピークの早い群の参加者は参照群と比べて24歳時のHOMA2の得点が高かった(β=0.05,95%CI:0.01~0.62;p=0.04)が,ピークの遅い群ではそのような関連は認められなかった。
〈考察〉本研究の結果は,小児・思春期に慢性的な軽度の炎症があり,小児期中期にそのピークが認められることが,成人後に精神障害と心代謝障害を併発する危険因子になり得るという仮説を支持するものであった。この仮説とは,持続的なCRP高値は9歳時にピークに達する慢性的な軽度の炎症を反映したものであり,この炎症がミクログリアの亢進や脳の構造・機能の変化などの中枢神経系の下流と,グルコース・インスリン恒常性の末梢に対して,重要な発達段階において影響を及ぼすというものである。これにより,成人期早期において精神病やうつ病のような障害と心代謝障害が併発しやすくなるような変化が生じることが考えられる。
〈結論〉小児期中期にピークがある軽度の全身性の炎症は,その後の精神病やうつ病,および心代謝障害の発症と関連しており,後期よりも早期における炎症のほうが重要であると考えられた。
