(No.120)「なんでも聞いて」と言いながら、聞いた部下に文句を言っていませんか
聞いても怒られる、聞かなくても怒られる職場の危うさ
「困ったことがあったら、なんでも聞いてください」
上司が部下にそう伝えることがあります。
おそらく、その言葉に悪意はありません。
部下に安心してほしい。
ひとりで抱え込まないでほしい。
困った時には相談してほしい。
そんな気持ちから出た、素直な言葉だったのだと思います。
しかし、「なんでも聞いてください」という言葉は、使い方を間違えると、部下を苦しめる言葉にもなります。
「なんでも聞いて」は、安心の約束である
私はこの言葉には、契約と同じくらいの重みがあると思っています。
もちろん、紙に書いた契約書ではありません。
法律上の契約でもありません。
けれど、上司が部下に向けて「なんでも聞いて」と言った瞬間、部下はその言葉を信じます。
「この人には聞いていいんだ」
「わからないことを確認しても大丈夫なんだ」
「困ったら相談していいんだ」
そう受け止めます。
つまり、「なんでも聞いてください」は、部下に対する安心の約束です。
上司としては、何気なく言った一言かもしれません。
しかし、部下にとっては、困った時に頼ってよいという大切な合図になります。
だからこそ、上司が「なんでも聞いて」と言ったなら、聞かれた時の責任があります。
もちろん、すべてに即答する責任ではありません。
部下の仕事を全部引き受ける責任でもありません。
何でも代わりに調べる責任でもありません。
それでも、聞いてきた部下を、自分の機嫌で突き放さない責任はあります。
聞いたら文句を言われる部下の気持ち
上司自身の体調が悪い時、仕事に追われている時、気持ちに余裕がない時に聞かれると、不機嫌な態度を取ってしまうことがあります。
「今、忙しいんだけど」
「それくらい自分で調べて」
「そんなことまで聞かないで」
「後にしてくれない?」
上司としては、たまたま余裕がなかっただけかもしれません。
しかし、部下にとっては違います。
「なんでも聞いてと言われたから聞いたのに、文句を言われた」
この経験は、部下の中に強く残ります。
そして次から、部下は聞くことをためらうようになります。
「これは聞いていいことなのか」
「今聞いたら、また不機嫌になられるのではないか」
「自分で調べろと言われるのではないか」
「こんなこともわからないのかと思われるのではないか」
部下は、質問する前に上司の顔色をうかがうようになります。
聞いても怒られる、聞かなくても怒られる
そこで部下が、自分で調べて、自分で判断して進めたとします。
ところが、その結果ミスが起きると、今度はこう言われることがあります。
「なぜ聞かなかったの?」
「勝手に判断しないで」
「わからないなら確認してよ」
こうなると、部下は完全に追い込まれます。
聞いても怒られる。
聞かなくても怒られる。
この状態は、ダブルバインド、日本語では二重拘束と呼ばれる状態に近いものです。
上司の言葉と態度が矛盾している。
部下はどちらを選んでも叱られる。
正解が見えない。
この状態が続くと、部下は仕事そのものよりも、上司の機嫌を読むことにエネルギーを使うようになります。
「今、声をかけても大丈夫だろうか」
「この聞き方なら怒られないだろうか」
「忙しそうだからやめておこう」
「でも聞かなかったら、また叱られるかもしれない」
本来、仕事に使うべき集中力が、上司の反応を予測することに奪われていきます。
部下は上司を信用できなくなる
やがて部下は、こう感じるようになります。
「この上司は信用できない」
「この人の言葉は信じられない」
「この職場は安心できない」
最初の「なんでも聞いてください」は、安心を与える言葉だったはずです。
しかし、その後の態度が伴わなければ、逆に不信感を生む言葉になります。
上司の言葉は、思っている以上に重いものです。
特に、部下が困っている時、不安な時、失敗したくない時に投げかけられた言葉は、部下の行動の基準になります。
だからこそ、「なんでも聞いてください」と言うなら、その言葉を守る覚悟が必要です。
すぐ答えられない時は、時間を伝えればいい
もちろん、上司にも余裕がない時はあります。
体調が悪い日もあります。
急ぎの仕事に追われている時もあります。
すぐに答えられない時もあります。
そのこと自体が悪いわけではありません。
問題は、聞いてきた部下を突き放してしまうことです。
すぐに答えられないなら、こう伝えればよいのです。
「今は手が離せないので、15時に聞かせてください」
「その件は大事なので、あとで一緒に確認しましょう」
「まずここまで調べて、わからないところを持ってきてください」
「お客様に影響することなら、早めに相談してください」
大切なのは、すぐに答えることではありません。
聞いてきたこと自体を責めないことです。
質問した部下を、自分の機嫌で傷つけないことです。
言った言葉と、実際の態度を一致させることです。
「なんでも聞いて」のルールも必要
また、「なんでも聞いていい」は、部下が何も考えずに丸投げしていいという意味でもありません。
だからこそ、上司は質問のルールもあわせて伝える必要があります。
「まず5分調べて、それでもわからなければ聞いてください」
「判断に迷うことは、早めに相談してください」
「お客様や他部署に影響することは、必ず確認してください」
「急ぎでなければ、夕方にまとめて聞いてください」
このように、聞いてよい範囲、聞いてほしいタイミング、事前に調べてほしいことを具体的にする。
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