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第10回「ヤング・マスター師弟出馬」

◆第1章:【作品考察】『ヤング・マスター』がアクション重視で作られた理由

拳シリーズで来たので、
次は「拳精」あたりを考えていたのだが、
ジャッキー監督作品について
引き続き考察してみたいということもあり
「ヤング・マスター」にしてみた。

「ヤング・マスター」は
初期ジャッキー映画の
集大成となる映画だ。

「笑拳」で監督としてのノウハウも学び、
ゴールデンハーベストに移籍して
ジャッキーが、自分の好きなこと、
やりたいことを詰めに詰めた映画だと思う。

物語としては、まとまり感はあまりないと
ネット上で、よく言われている。
確かに冷静に見ると、その通りである。
前半、ドラマ部分で
盛り上げていたにもかかわらず、
後半アクション部分がメインになってくると
急にドラマ的要素が薄くなってくる。

タイガーが道場を出ていく時、
またジャッキーがタイガーを
連れ戻すために出ていく時、
あんなに盛り上がってたのに、
最後、道場に帰ってくるのは、
わりとアッサリ。
あっ、そう。そんなものなの?みたいな。

ただ、そこに至るまでのアクションが、
とてつもないので、(質も量も)
物語がアッサリ気味に終わったとしても
見てる側は、結構満腹感はあると思う。

これは、あくまでも予想なのだが、
ゴールデンハーベストという新天地での
監督作品ということもあって、ジャッキー自身が
物語の整合性よりも、自分が表現できる
最高のアクションシーンを
優先させたからでははないかと思う。

もちろん、出ていった兄弟子を
探し出して連れ戻すロードムービーに
しようってことくらいは、
あらかじめ考えてたと思うのだが、
先にその流れに沿って
この当時、ジャッキーが考えられる
最高のアクションを、すべて撮影した。
その後で、タイガーが道場を出て行く
動機つけになる部分を撮影した。
後半と比べて、前半のジャッキーの髪型の方が
長いように感じるのは、
そのせいでないかと思う。

だから感動ドラマは、ジャッキーが
師匠に反論しタイガーを探しに出て行く
ところで完結してるのだ。

最初に言ったように、
とにかくジャッキーのやりたい
アクション重視で作られたんだと思う。

◆第2章:【演出の秘密】キリモミと砂ぼこりが生む「圧倒的なリアリティ」

そのアクションについては、
文句ない傑作である。
小道具を使うアクション、
変装でのアクション、
多人数を相手した時のアクション等
「笑拳」の時にやっていたモノと比べて
レベルアップしたモノが次々と出てくる。

「蛇拳」「酔拳」「笑拳」がヒットしたことで
多くの亜流作品も誕生した。
それは、ある意味ジャッキーアクションを
真似る人が多く出てきたことも意味する。
そこでジャッキーは、今までのスタイルを捨て
新しいアクションの形を模索することになる。

ジャッキーは、観客に衝撃を与えたかったようだ。
そして観客が一番見たいものは何か?
それを考える中で、これまでのクンフー映画で
やってきた型を重視した殺陣ではなく、
ストリートファイトのようなリアリティのある
アクションというものを思いつく。

実際、相手の強さを強調するため
キック等を受けた時のリアクションとして
キリモミと言われるスピンしながら
倒れるというアクションを
この「ヤング・マスター」で初披露している。

これは、横に吹っ飛ぶわけでなく、
画面でいうと上から下にスピンしながら
落ちていく感じなのだ。

ラストバトルで、ジャッキー自身が
このキリモミで吹っ飛ばされるシーンがある。
これによってラスボスの圧倒的な強さを
一瞬で視覚化することに成功している。

この相手の強さを強調するための
受けのアクション。
これは敵役を演じる俳優の実力は言うまでもなく
やられる側のスタントマンにも高度な実力が求められる。
この受けのアクションにワイヤーも使用されている。
これによって、一発の蹴りで人が、大きく吹っ飛ばされる。
まさに観客に衝撃を与えるアクションだ。

更に砂ぼこりを使って戦いのリアリティを演出している。
相手にパンチやキックが実際に当たっていなくても
タイミングよく砂ぼこりが舞うことによって
本当に殴られて倒れているように見える手法だ。
迫力ある映像は、こんな工夫からも生まれている。

また高いところに上る、そこから落ちる。
と言ったスタントシーンもある。
(警察から逃げるために壁を上る等)
ジャッキーの身体能力の高さが
十二分に発揮されているアクションだ。

クンフー対決が平面での動きなのに対して
スタントマンがアクロバティックに動くことによって
横と縦の動きを画面いっぱいに表現できる。
単調なバトルシーンにならない工夫だ。

思えば、「ヤングマスター」あたりから
アクションシーンにアクロバティックな動きが
増えたように思う。

「プロジェクトA」「ポリスストーリー」
「サンダーアーム」「プロジェクトA2」等
その後の監督作品を見ても、そういう観点から
バトルの舞台を平原から、室内に変更することで
横に縦に動き放題のアクションを見せてくれている。
そうやって次々に、素晴らしいアクションのアイディアを
思いついたのではないかと思えてくる。

◆第3章: 【最高峰の死闘】ラスボスの強さを引き立てた「受けのアクション」

さて最後の対決についてだが、 
これまでのクンフー映画のバトルとは
全然違うものを見ることになる。
本気の殴り合いではないか思うほど、
今までと迫力が全然違うのだ。
その迫力の秘密は、先程述べた通りである。

このラストバトルは、
40日間かけて撮影されたらしい。
まさに死闘とも言えるラストバトルの
撮影だっただろう。これまでジャッキーが
経験してきた武術指導としての集大成とも
言えるのが、このラストバトルなのである。

ここでの見どころは、もちろん
ジャッキーが逆転する瞬間だ。
正気を失いつつあるジャッキーに、
敵はいつものように足払いを仕掛ける。
ジャッキーの体は大きく宙に舞い、
背中から地面に叩きつけられる。
一見すると、これまで何度も見てきた
受け身のアクションと同じシーンだ。
しかしこのときのジャッキーは、なぜか笑っている。
ここからジャッキーの狂気・逆転劇が始まる。

この逆転シーンに至るまでに、
ジャッキーはありとあらゆる技を使って戦いに挑んでいる。
見る人が見れば、このジャッキーの戦いは、
むやみやたらに敵に挑んでいるわけではないらしい。

しかし、そんなジャッキーの技を
上回る敵の強さが圧巻なのである。
キリモミの説明でも述べたが、
このジャッキーのやられっぷり、
その技を受ける受身のアクションが、
敵の圧倒的な強さを上手く表現している。

ラストバトルなのに、
この強さの差を感じる展開。
こんな奴にどうやって勝つんだ?と見てる方は、
手に汗を握りながら対決を見守ることになる。
結局、タバコ水(アヘンらしい)を飲んで
正気を失わない限りは
勝てなかったというオチなのだが。

ここで前半、数々の受け身のアクションで
敵の強さを強調してきたことが活きてくる。
敵の攻撃に対して、全くリアクションをしなくなるのだ。
あきらかに敵の攻撃が効いていないことが、
映像を見ただけで、観客に伝わるようになっている。
あれだけ強かった敵に対してのジャッキーの逆転劇が、
違和感のない形で描かれているのだ。

ジャッキーの思惑通り、今までにない
強烈な印象のアクションの連続に
観客は大いに興奮し、映画も大ヒットとなった。

◆第4章:【香港版と国際版】私が「国際版」を好きな訳

最後に、いつものバージョン違いの話である。

香港で公開された香港公開版と
外国向けに公開された国際版がある。
TVで放映されていたのは、
この国際版で主に音楽が違うのである。
国際版では宇崎竜童が
音楽を担当しているらしい。
この映画の主題歌「さすらいのカンフー」を
ジャッキー本人が歌っている。
実はジャッキー歌手デビューの
作品でもあるのだ。
こう考えると国際版
(劇中のセリフも英語になっている)と
言いつつも日本市場を、すごく意識した
バージョンと言えるかもしれない。
それは、これまでの日本独自の
主題歌や劇中歌をつけてヒットしてきたことが
少なからず影響しているのかもしれない。

対して香港版の音楽は、
交響曲「惑星」を使っている。
なぜ「惑星」だったのか?
どういう意図があったのか?
それは、全くわからない。
この映画にそれなりにハマっている曲が、
実は交響曲だったというのは、少し驚きである。

また他の違いとしては、
香港版にしかないシーンが多くあり
上映時間も香港版の方が長い。
しかし国際版にしかないシーンも少しだがある。

台湾版というバージョンもあり
この台湾版にしかないシーンもあったりする。

さて、どちらが好みかと言われれば、
それは間違いなく国際版の方である。
TV吹き替え版を長く見て、親しんできた
というのも、もちろんあるが、
映画のラストでかかる
主題歌の「さすらいのカンフー」。
そのバックで、劇中のシーンが
コマ割りされた形で出てくる。

その主題歌を聞きながら本編の映像を見ていると
楽しかった旅も終わってしまうんだなという
少し切ない寂しい気持ちになってしまうのだ。

その少しの寂しさを感じつつ
映画の楽しさを噛み締めながら
見終わるのが好きなのである。


※画像はAI(Gemini)を使って作成したものです。

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