健康保険が使えないケースとは?
「保険証があるから何でも使える」は誤解です
病院で保険証を提示すれば、どのような病気やけがでも健康保険が使えると思っていませんか?
実は、健康保険には利用できないケースや、保険給付が制限されるケースがあります。
誤って健康保険を使用すると、後から医療費の返還や、労災保険への切り替えなどが必要になることもあります。
今回は、健康保険が使えないケースや給付制限について、健康保険法の根拠も交えながら解説します。
健康保険は、業務外の病気やけがを対象とする医療保険制度です。
また、健康保険法では、故意の犯罪行為や闘争(けんか)、泥酔など一定の場合には、保険給付が制限されることが定められています。
ただし、その制限には、
* 絶対的給付制限(健康保険法第116条)
* 相対的給付制限(健康保険法第117条)
の2種類があり、適用される場面が異なります。
① 業務中のけが(業務災害)
仕事中のけがや病気は、原則として労災保険の対象です。
例えば、
* 工場で機械に挟まれた
* 営業中に交通事故に遭った
* 荷物を持ち上げて腰を痛めた
などです。
このような場合は、労働者災害補償保険法による保険給付の対象となるため、原則として健康保険による療養の給付は行われません。
② 通勤途中のけが(通勤災害)
合理的な経路・方法による通勤中の事故も、原則として労災保険が適用されます。
例えば、
* 通勤途中の交通事故
* 駅構内での転倒
* 自転車通勤中の事故
などです。
会社へ報告し、適切な労災手続きを行うことが大切です。
③ 美容目的の治療
健康保険は病気やけがの治療を目的とした制度です。
そのため、
* 美容整形
* 二重まぶたの手術
* 美容目的のレーザー治療
* 美容目的のしみ取り
などは、原則として健康保険の対象外です。
一方で、
* 口唇裂などの先天性疾患
* 外傷後の形成手術
* 機能回復を目的とする治療
などは、治療目的として健康保険が適用される場合があります。
④ 予防目的の医療
次のような予防目的の医療は、原則として健康保険の対象外です。
* 健康診断
* 人間ドック
* 予防接種
ただし、健康診断で病気が発見され、その後の検査や治療を行う場合は健康保険が適用されます。
⑤ 正常な妊娠・出産
正常な妊娠・出産は病気ではないため、原則として健康保険の対象外です。
一方、
* 帝王切開
* 切迫早産
* 妊娠高血圧症候群
* その他の異常分娩
など、治療を伴う場合には健康保険が適用されます。
※令和8年6月現在
⑥ 自由診療
保険適用外の治療や自由診療を選択した場合は、健康保険を利用できません。
⑦ 差額ベッド代など
健康保険は治療費を補償する制度です。
そのため、
* 差額ベッド代
* 診断書作成料
* 入院用品代
* 各種証明書発行料
などは自己負担となります。
⑧ けんかによるけが
「けんかをしたら健康保険は使えない」と思われることがありますが、一律に使えないわけではありません。
ここで重要なのが、健康保険法第116条と第117条の違いです。
健康保険法第117条(相対的給付制限
健康保険法第117条では、
「闘争、泥酔又は著しい不行跡」によって傷病が生じた場合は、保険給付の全部又は一部を行わないことができる
と規定されています。
「行わないことができる」とされているため、保険者が事故の状況を確認し、給付制限の要否を個別に判断します。
例えば、
* 双方が殴り合った
* 酒席で口論となり負傷した
などは、第117条による判断の対象となります。
健康保険法第116条(絶対的給付制限)
一方、
* 故意の犯罪行為
* 故意に給付事由を発生させた場合
には、第116条が適用されます。
例えば、一方的に暴行を加えて傷害罪となり、その犯罪行為によって自ら負傷したような場合には、第116条による給付制限が問題となります。
被害者側は健康保険が使える場合も
一方的に暴行を受けた被害者については、「第三者行為による傷病」として健康保険を利用できる場合があります。
協会けんぽでも、「交通事故やけんかなど第三者の行為による負傷」は、第三者行為による傷病届の提出対象と案内されています。
⑨ 飲酒によるけが
「お酒を飲んでいたら健康保険は使えない」
これも正確ではありません。
飲酒していたというだけでは、一律に健康保険が使えなくなるわけではありません。
例えば、
* 飲酒後に転倒した
* 酒席からの帰宅途中に転んだ
といったケースは、それだけで健康保険が使えなくなるものではありません。
一方で、
* 飲酒運転
* 危険運転致死傷罪に該当する行為
* 無免許運転
などの犯罪行為によって傷病が発生し、その犯罪行為と傷病との間に相当因果関係が認められる場合には、健康保険法第116条による給付制限の対象となる可能性があります。
重要なのは、
「飲酒したかどうか」ではなく、「犯罪行為に該当するか」「傷病との因果関係があるか」
という点です。
知っておきたい実務知識
健康保険法には給付制限がありますが、埋葬料については例外があります。
故意の事故や自殺などで死亡した場合であっても、死亡は最終的・絶対的な事故であることから、埋葬料については給付制限の対象外とされています。
実務ではあまり知られていませんが、重要なポイントの一つです。
間違えやすいポイント
「交通事故だから健康保険は使えない」
これは誤解です。
交通事故など第三者の行為による傷病は、「第三者行為による傷病届」を提出することで健康保険を利用できる場合があります。
一方、業務中・通勤中の事故は、原則として労災保険が優先されます。
社労士からのワンポイント
健康保険が使えるかどうかは、
* どこで起きた事故なのか
* なぜ負傷したのか
* 犯罪行為に当たるのか
* 闘争や泥酔に該当するのか
によって判断が異なります。
特に、
* 労災事故
* 交通事故
* けんか
* 飲酒が関係する事故
は自己判断せず、医療機関や保険者へ事情を説明し、必要に応じて社会保険労務士へ相談することをおすすめします。
まとめ
健康保険が使えない、または給付が制限される主なケースは次のとおりです。
* 業務災害・通勤災害(労災保険が優先)
* 美容目的の治療
* 予防目的の医療
* 正常な妊娠・出産
* 自由診療
* 差額ベッド代などの保険対象外費用
* 故意の犯罪行為による負傷(健康保険法第116条)
* けんかや泥酔など著しい不行跡による負傷(健康保険法第117条)
制度を正しく理解することは、ご自身を守るだけでなく、会社にとっても適切な労務管理につながります。
「このけがは健康保険が使える?」
「労災保険と健康保険、どちらで手続きすればよいの?」
制度の判断に迷ったら、一人で悩まず、社会保険労務士きくち事務所へお気軽にご相談ください。制度の違いや必要な手続きを分かりやすくご説明いたします。

引用・参考資料
* 健康保険法(第116条・第117条・第122条)
* 健康保険法施行規則(第三者行為による傷病届)
* 労働者災害補償保険法
* 厚生労働省「わが国の医療保険について」
* 全国健康保険協会(協会けんぽ)「療養の給付」
* 全国健康保険協会(協会けんぽ)「給付の制限を受ける場合」
* 全国健康保険協会(協会けんぽ)「第三者行為による傷病」
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