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もうすぐ会えるからね

昨日、1週間ぶりに母の面会に妻と二人で行った。

妻が「ママ」と声をかけると、母はゆっくり目を開け、私たちを見るなり、突然、涙を流しながらこう言った。

「会いに来てくれたんだな……。もう家に帰られないと思った。ありがとう。」

そう言って、母は泣き崩れた。

その姿を見た瞬間、胸の奥に、言葉にならない思いが込み上げてきた。

母にとって病院に来るということは、
「自分の死が近づいている」
そう覚悟することなのだろうか――。

そんな思いが頭をよぎった。

面会前、看護師さんから母の様子を聞いた。

食事はしっかり取れていること。
ただ、免疫力が弱っているため、体にウイルスが入り、時々熱を出していること。
今は尿から細菌が検出され、その影響で右足にむくみが出ていること。

それでも、もう少し治療を続け、状態が良くなれば、11日に退院できる予定だという。

ただ、その説明をしても、母はすぐ忘れてしまう。

だから私は、またノートに大きな字で書いて母に見せた。

「今日は7日。あと3日病院で頑張れば、家に帰れるよ。
ひ孫と、孫と、私たち夫婦、5人で家で過ごそうね。」

母は、その文字を何度も見つめながら、

「本当に帰れるんだな……。」

そう言って、涙ぐみながら何度も繰り返した。

東京にいる息子は、仕事で帰って来られなかった。

そこでテレビ電話をつなぎ、

「母さん、退院できるんだって。おめでとう。」

そう声をかけてくれた。

母は、「いつ来る?」と何度も聞いていた。

やはり、実の息子に会いたいのだろう。

電話を切った数分後には、

「息子はいつ来るんだ?」

また同じことを聞く。

「さっき電話で話したでしょう。今日は平日だから仕事なんだよ。」

そう説明しても、また同じ会話を繰り返す。

それでも、そのやり取りさえ、今の私には大切な時間に感じられた。

ひ孫の写真を見せると、

「いい子だな。立派に育つな。」

そう言って、嬉しそうに目を細めていた。

そして母は、ぽつりと、

「自分が家に帰ると迷惑をかけるけど、よろしく頼むな。」

そう言った。

私は、

「お母さんが帰って来てくれるだけでいいんだよ。
いてくれるだけで、みんなの希望になるんだから。」

そう伝えながら、足や背中にかゆみ止めの薬を塗った。

髪をとかし、背中や肩をゆっくりマッサージしていると、面会の時間は本当にあっという間に過ぎていった。

家では、娘が赤ちゃんと二人で待っている。

だから、早く帰ってあげなければならない。

一昨日、娘は春の日差しの差し込む窓辺から、静かに庭を眺めていた。

赤やピンクの花が咲き、ベランダには小さな赤ちゃんの服が並んでいる。

部屋の中では、娘夫婦がミルクや赤ちゃんの身支度を整え、妻が赤ちゃんを抱いてあやしていた。

その何気ない風景を見た瞬間、私はふと思った。

娘はこれまで、東京という人の多い街で、仕事と時間に追われながら、身重の体で必死に暮らしてきた。

周りの人たちも、自分の生活で精一杯で、妊婦である娘にまで気を配る余裕は、きっとあまりなかったのだと思う。

けれど、ここでは違った。

出産のため入院するときも、看護師さんだけでなく、多くの人たちが心配そうに声をかけてくれた。

その後、母の病状が悪化し入院。

娘も難産の末、ようやく出産を終えた。

そんな長い時間を乗り越えて、今、静かな春の景色が、家の中に広がっている。

娘がぽつりと、

「今が幸せだな。」

そう言った理由が、少しわかった気がした。

今、娘と妻は、赤ちゃんの検査のため病院へ行っている。

母も、赤ちゃんも、状態が良くなれば、あと3日後には、我が家で二人が出会う。

その瞬間が、待ち遠しい。

二人とも、もうすぐ会えるからね。

がんばれ。

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