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心に残る上司の言葉

私は何度も転職をしているので、いろんな職場環境、そしてたくさんの上司の下で働いてきた。いろんなマネジメントスタイルの上司に巡り会ったが、私のその後の人生に大きな影響を与えたのは、会社の経営者たちから成る非営利団体の事務をしていた時の上司二人。

お二方とも地元の政財界ではその名を知らない人がいないほどの著名人たち。この人たちを知れば知るほど、なぜ彼らが今のポジションに君臨しているのかが、手に取るようにわかった。決断力、実行力はもとより、人を思いやることでも、彼らはその非営利団体に所属するたくさんの経営者たちの中でも抜きん出ていた。

一人は戦後の混乱の中で、自ら奮起して経営者として成功を収めた人。この人はご老齢だったこともあり、ご自身のスピーチの原稿は全てご自分で手書きをされて、その原稿をワープロに打ち直すという作業を、私は自分の業務の一つにしていた。決して綺麗とは言えないその原稿、そして見慣れない漢字の羅列で、まるで一枚づつパズルのピースを並べていくような作業だった。
ある日、この上司の元にワープロで打った原稿案を届けに行った時のことだ。その人が私に

「いつも嫌な顔をしないで、根気強くわたしの乱筆と向き合ってくれて、本当にありがとう。感謝しているよ。」

と言ってくれた。読めない文字を何度も聞きにいったり、言葉の意味を調べたり、時間のかかる作業だったが、仕事だと思って特に気にもとめていなかった。でも上司がこんな風に思ってくれていたということを知って、とても嬉しかった。

そしてこの上司は、私がオーストラリアへと旅立つ前に、雪景色の絵が描かれたから傘をくれて、

「君の子供たちに、君の育った場所の話をする時に見せてあげてほしい。」

と言われ、思わず目頭が熱くなったことを今でも時折思い出す。本当に優しい方だった。

そしてもう一人の御仁は、とにかく明るく、そして華のある人だった。この上司はスタッフの誕生日を覚えていてくれて、お財布やら置き時計やら、とにかく素敵なプレゼントをしてくださる方だった。

この上司との出来事で強烈に印象に残ったのは、勤務先の団体に所属する、ある会員さんが、近々開催予定のセミナーの登壇者の席次だったか、スピーチの順番だったかが気に入らないと言って、私たちのオフィスに乗り込んできた時のこと。不幸なことにその時オフィスには私一人しかいなかった。その会員さんは恫喝まがいの言葉遣いで、30分ほど怒鳴り散らして、オフィスを後にした。あまりの出来事に私は思わず泣いてしまった。そこへたまたま上司がやってきて、私に泣いている訳を聞いた。今起きた出来事を伝えると、上司はすぐに電話を取って怒鳴り散らしていった会員さんに連絡をした。

「今うちのオフィスに来られました?うちのスタッフ泣いてるんですけど。仰りたい事があるなら我々役員に直接言ってもらえませんかね。どういう事情にしろ、うちのスタッフを怒鳴りつけるなんて言語道断ですよ。今すぐあなたが罵声を浴びせたうちのスタッフに謝りに来てください。」

と、語気を強く、でも丁寧な言葉遣いで先方に伝えた。そして電話を切ると、

「というわけで、これから彼が来るからね。私がここにいると、彼もばつがわるいだろから、私は下のカフェでお茶でもしてるとします。何かあったらすぐ電話してね。」

と言って立ち去った。

1時間後、問題の会員さんが大きな花束を持って、私のところに謝りにきて、この事件は一件落着となった。

この時私は、上司が先方に言った言葉にももちろん感動したのだが、私は電話を切ってからの一言にも感銘を受けた。誰に対しても心遣いを忘れないこの上司も、さすが大物ビジネスマンと思わせてくれる御仁だった。

もちろん時には厳しいこともあったが、後にも先にも、この上司たちのような人には出会っていない。

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