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がん対策基本法の成立から20年

 がん対策基本法は、がんを個人や医療機関だけの問題ではなく、国・自治体・医療者・医療保険者・事業主・国民が共同して取り組むべき社会的課題として位置づけた法律である。2006年6月に成立・公布され、2007年4月に施行された。したがって、2026年は成立・公布から20年の節目である。
 この法律にかんして、がんに罹患する前は他人事であったが、ステージ4がん患者となってからはいろいろと調べてきた。そのまとめを以下に記す。
 この20年の歩みを一言で述べれば、がん対策は「死亡率を下げる医療政策」から、「予防、早期発見、専門医療、緩和ケア、就労、教育、相談支援、ゲノム医療、がん登録、患者の生活の質まで含む総合政策」へと拡張してきた、ということである。
 がん対策基本法の目的は、がん対策の基本理念を定め、国・地方公共団体・医療保険者・国民・医師等・事業主の責務を明らかにし、がん対策推進基本計画を策定することで、がん対策を総合的かつ計画的に推進することである。法律の柱は、大きく分けると次の通りである。
 第一に、がんの予防と早期発見である。喫煙対策、感染症対策、生活習慣への啓発、がん検診の質向上と受診率向上などが含まれる。
 第二に、がん医療の均てん化である。均てん化とは、住んでいる地域にかかわらず、一定水準以上のがん医療を受けられるようにする考え方である。がん診療連携拠点病院等の整備は、この考え方の中心にある。
 第三に、研究と医療技術の向上である。がんの予防、診断、治療、緩和ケア、支持療法、希少がん・難治がん、小児・AYA(Adolescent and Young Adult:思春期・若年成人)世代のがん、高齢者のがん、ゲノム医療などが政策対象に入ってきた。
 第四に、がん患者と家族の生活支援である。相談支援、情報提供、緩和ケア、就労支援、学校教育、社会的な偏見の軽減などが含まれる。2016年の法改正では、がん患者が安心して暮らせる社会づくりや、事業主による就労継続への配慮がより明確に位置づけられた。
 第五に、がん対策推進基本計画である。これは法律に基づいて政府が策定する国の基本方針であり、都道府県が策定するがん対策推進計画の基礎にもなる。
 この20年の主な流れは、次のように整理できる。
 2006年、がん対策基本法が成立・公布された。背景には、がんが日本人の主要な死因であり、地域による医療格差、情報不足、緩和ケアの遅れ、患者の声が政策に十分反映されていないことへの問題意識があった。
 2007年、法律が施行され、第1期がん対策推進基本計画が策定された。この時期の中心課題は、がん診療連携拠点病院の整備、放射線療法・化学療法の専門体制、緩和ケア、がん登録、相談支援の拡充であった。すなわち、まずは全国で標準的ながん医療を受けられる体制を作る段階であった。
 2012年、第2期がん対策推進基本計画が始まった。この時期には、「がんになっても安心して暮らせる社会」「診断時からの緩和ケア」「働く世代や小児へのがん対策」「がん教育・普及啓発」「就労を含む社会的問題」などが重視された。がんを単に治療するだけでなく、生活・仕事・家族・学校を含めて支える方向に広がったのである。
 2013年には、がん登録等の推進に関する法律が成立し、2016年から全国がん登録が始まった。全国がん登録は、がんの罹患数、生存率、地域差などを把握し、がん対策や研究に活用するための制度である。すべての病院と指定診療所が、がん患者の罹患情報を届け出る仕組みである。私も登録されているのだろう。
 2015年には、がん対策加速化プランが策定された。このプランは、「予防」「治療・研究」「がんとの共生」の3本柱として整理される。これは後の第3期・第4期計画の方向性にもつながった。
 2016年、成立から10年の節目にがん対策基本法が改正された。大きな意味は、がん医療の進歩によって「がんとともに生きる期間」が長くなったことを受け、就労、教育、社会生活、患者支援を法律上より明確にした点にある。がんは「死に直結する病気」としてだけでなく、「治療を受けながら暮らし続ける病気」として政策的に扱われるようになったのである。
 2018年、第3期がん対策推進基本計画が閣議決定された。目標は「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す」であり、科学的根拠に基づくがん予防・がん検診、患者本位のがん医療、尊厳を持って安心して暮らせる社会の構築が掲げられた。また、がんゲノム医療、希少がん・難治性がん、小児がん、AYA(Adolescent and Young Adult:思春期・若年成人)世代のがん、高齢者のがんなど、対象がさらに細分化された。
 2018年以降、がんゲノム医療の体制整備が進んだ。がんゲノム医療を必要とする患者が全国どこでも受けられる体制を作るため、がんゲノム医療中核拠点病院、拠点病院、連携病院の指定が進められてきた。
 2023年、第4期がん対策推進基本計画が始まった。全体目標は「誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とがんの克服を目指す。」である。柱は「がん予防」「がん医療」「がんとの共生」、そしてそれらを支える基盤である。第4期では、地域差、経済状況、性別、年齢、ライフステージによる格差をどう縮小するかが、より前面に出ている。
 がん対策基本法の20年を評価すると、成果と課題の両方がある。成果としては、がん診療連携拠点病院の整備、標準治療へのアクセス改善、緩和ケアの普及、相談支援センターの整備、全国がん登録の開始、がんゲノム医療体制の構築、患者の就労支援や社会生活支援の制度化が挙げられる。私もこの成果を享受している。
 一方で、課題も残っている。医療提供体制の整備は進んだものの、地域間・医療機関間で進捗に差がある。がん検診の受診率、精密検査受診率、禁煙・受動喫煙対策、緩和ケアの質、治療と仕事の両立、経済的負担、AYA(Adolescent and Young Adult:思春期・若年成人)世代や高齢者の支援、希少がん・難治がんへの対応などは、今も十分に解決されたとは言えない。特に、がん医療の均てん化が医師不足や過疎化により進んでおらず、集約化に舵を切ったことで、地方在住のがん患者の通院が難しくなった。
 重要なのは、がん対策基本法が「がん医療の法律」にとどまらないことである、と考えている。現在のがん対策は、医療政策、社会保障政策、労働政策、教育政策、地域政策、研究開発政策が交差する領域になっている。これは、がんが死の病ではなく、長期にわたる治療・経過観察・生活調整を伴う病気になってきたことを反映している。

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