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(書評)第156回「至高聖所(アバトーン)」(松村栄子 著)☆芥川賞受賞作。孤独と痛みの癒しを求めるキャンパス小説☆

第106回(1991年度下半期)の芥川賞受賞作です。著者は、筑波大学出身ですが、筑波研究学園都市の筑波大学を舞台に、主人公の新入生、青山沙月の1人称形式で描かれる学園物語(青春小説)です。まったく異なる性格の者同士が、同じ寮の部屋で生活する話です。

整然と区画整備されたエリアには、近代的で無機質な学部棟や研究施設が建ち並び、そこを行き来するのは学生と研究者と大学関係者などの、ごく限られた人たちだけで、人間臭い市井の人々や労働者などの姿はない、いわば特殊なコロニー(集団居住地)が物語の舞台です。大学の寮で学生生活を始めたばかりの主人公・沙月は、水晶の産地の山梨の出身。鉱物研究会に入って、日夜鉱物と向き合うのですが、鉱物の何に惹かれるのかというと、安らぎと切なさでした。くっきりとした輪郭と安定した結晶構造をもち、計算できる世界に感じる安らぎと、決してその内部には触れることができず拒絶されることの切なさ。この矛盾したような感覚から生まれる淋しさのようなものに、惹かれていきます。

北海道から来た千秋と、鹿児島から来た葉子と友達になる沙月でしたが、エキセントリックなルームメートの真穂とは相容れることがなく、お互い距離を取りつつ大学生活を始めます。しかし徐々に真穂の胸の奥に抱え込んでいる孤独と痛みに引き寄せらていきます。真穂は、自らの癒しを求めるかのように、かつてギリシャの神殿の最奥にあったという夢治療の場所「至高聖所」を舞台とした芝居の脚本の創作に情熱を傾けるのですが、その上映は実現しませんでした。一方沙月は、家族の生きる希望だった姉が結婚すると聞いて、両親はそれに賛成しますが、自分は受け入れられないままという状態に陥いります。やがて不眠症になってしまい、安眠を求め彷徨います。真穂の孤独と痛みに共鳴するなかで、自らのなかにもあった孤独と痛みを発見し、自分自身の癒しを求めて、自分の「至高聖所」を探します。

松村栄子

10代の女子大生の、生の感覚がみずみずしく描かれています。文章のうまさと読みやすさは抜群です。飾ることなくサラサラと流れるように書きながら、それでいて微妙な感覚を的確に表現しています。

選考委員の河野多惠子は「文章は一行ごとに小気味よく展開する」「快い手応えを感じながら読み進んだ」と言い、大庭みな子は「現代のキャンパスが眼に浮かぶ情景の中で描かれている」「ここで描かれている大学の寮生たちの生活は、一九八〇年代のものであろうが、それらの情景が、その昔から変らない青春の姿を映し出していることに感心した」「傲慢で無力な夢想の溢れた若さというものが、気取りや衒気をも混えながら、ともかくも真面目に追われている。好感が持てた」と評価し、三浦哲郎は「清澄な文章に敬意を表しておこう」「読んでいて一種の爽快感をおぼえた」と言いました☆


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