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(書評)第91回「嫌いなら呼ぶなよ」(綿矢りさ 著)☆心に潜む「明るすぎる闇」を暴き出す、綿矢りさの新境地☆

著者の2022年に発表された短編集です。心に潜む「明るすぎる闇」を暴き出します。全4作収録されています。身近にいたら厄介な感じの、何かが過剰な人々を描いています。

「眼帯のミニーマウス」

可愛いものと承認欲求に取り憑かれて、プチ整形を繰り返し社内の話題をさらう20代の女性会社員が、美容整形した顔を会社の仲間に「いじられる」話です。顔を包帯でぐるぐる巻きにするラストが痛いです。

「神田タ」

勤務先の飲食店にやってくる素人ユーチューバーの神田に固執して、コメントを書きまくる飲食店アルバイトの女性が主人公です。神田への応援コメントが、いつしかアンチコメントに過熱していく様子が怖いです。ラストで神田の鞄に「放火」する場面は、危険極まりないです。

この2つの短編は、いかにも「危険な」若い女性が、完全にリミッターが壊れていく様を描いています。うわー、それ怖すぎっ!とか、絶対やっちゃダメッ!と紙面に向かって叫びたくなるような行動に、当たり前のように突き進んでいきます。

「嫌いなら呼ぶなよ」

妻がいながらも、何の罪悪感もなしにゲーム感覚で、ほかの女性と関係を持っている「不倫男」が主人公です。妻とその親友が企画したパーティに呼び出されてみたところ、実はそれは主人公の行動を問い詰める場を設けるための口実で、主人公は妻とその友人やそのパートナーたちに取り囲まれて、ミニ裁判が始まります。主人公は釈明をせざるを得なくなります。その釈明は薄っぺらいのですが、男の身勝手なのにやけに説得力のある理屈が面白すぎます。主人公の「一応、暴力だろ。石でも言葉でも嫌悪でも」というセリフが効いています。その臨場感あふれる対決が見所です。

「老は害で若も輩」

とある女性作家(綿矢)へのインタビューを女性フリーライターが書き起こすのですが、内容が気に入らないと作家がクレームをつけてきます。女性2人のメールによる言葉の乱闘はエスカレートし、間に挟まれた新人の男性編集者を困らせます。女性作家、女性ライター、男性編集者が、揃って被害意識に燃え、メールでバトルを展開します。「もしかしたらコロナ禍という特殊な状況が色んな人の頭の磁場を狂わせているのかもしれない」という男性編集者のつぶやきが効いています。

綿矢りさ

著者のすごいところは、こうした主人公たちの振る舞いを、ポップな語り口で軽快に描いて読者を楽しませつつ、ちょっと気持ちわかるわ〜と思わせた後に、あさっての方向に突き飛ばすことです。驚愕のラストを読み終えた後には、変な笑いが込み上げてきます。本作で描かれるコミュニケーションは有毒なまでに暴走し、その挙句に遮断され、繋がりが断たれます。有毒なコミュニケーションを止めるのは、言葉ではなく、常にむき出しの物理的な力です。

美容整形についていじり続けるやり取りは、ぐるぐる巻きの包帯で遮断され(「眼帯のミニーマウス」)、ユーチューバーへのアンチの粘着的なコメントは黄色いおしっこで押しとどめられ(「神田タ」)、ミニ裁判での主人公の最後のひとことは、ドアで遮断され(「嫌いなら呼ぶなよ」)、ベテラン作家から若手編集者への深夜になっても止まることのないアドバイスは、停電によってブロックされます(「老は害で若も輩」)。そしてそれによって訪れる、電源をぶつっと切ったような静けさが心地いいです。

物語の舞台は、すべてコロナ蔓延期です。その特徴がそれぞれの物語に如実に表れています。赤い地に青い水玉模様の表紙がイライラ感を煽って素敵です☆


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