【データ革命】 大谷翔平・ダルビッシュ有が1球ごとに確認! WBC優勝の裏側を支えた「野球の深層」
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翔平 : 奈美さん、今野球界で起きている「データ革命」って知ってる?この話題の本である『データ・ボール:アナリストは野球をどう変えたのか』を読んで、その凄さを改めて感じたんだ。
奈美 : アナリストっていう言葉は聞くけど、具体的に野球がどう変わったのかはよくわからないな。昔は打率とか防御率が大事だったんでしょう?
翔平 : そうそう。まさにその評価基準が激変しているんだ。この本では、日本の野球界におけるデータ活用の最前線やアナリストの役割が体系的に描かれているよ。例えば、トラックマンやラプソード、ホークアイといった計測機器の導入で、選手のパフォーマンスが詳細に数値化されているんだ。
奈美 : 機器の名前は聞いたこともあるかな。でも、トップ選手って感覚で投げているイメージだけど...。
翔平 : そこが衝撃的なんだ。2023年のWBCで、弾道測定器「トラックマン」が侍ジャパンに導入された時の話が載っているんだけど。導入のきっかけは、WBCで使うボールにあった。NPBが普段使っているミズノの統一球と、WBCで使用されるMLB主催のローリングス社製のボールは、規格は同じだけど、製造工程の違いで表面の感触が異なり、WBC球の方が少し大きく重いんだ。
奈美 : ボールが少し違うだけで、そんなに影響があるの?
翔平 : 投手にとっては大問題なんだ。このボールの差異が投球にどんな影響を与えるかを事前に把握し、対応策を立てる必要があった。そのために、投球の回転数や回転軸、軌道などを計測できる「トラックマン」が必要とされたんだ。トラックマンの野球部門責任者である星川太輔さんが、NPB側と協議を重ね、導入が決まったんだよ。
奈美 : なるほど。それで、宮崎キャンプで計測を始めたのね。
翔平 : 宮崎キャンプのブルペンで、侍ジャパンの投手たちは、NPB球とWBC球での投球データを比較していったんだ。ここで、ダルビッシュ有選手が決定的な意識改革のきっかけを作った。
奈美 : ダルビッシュ選手が?
翔平 : 彼はブルペンで「トラックマン」を設置したレーンに向かい、1球1球、タブレットの画面をチェックしたがったんだ。日本の多くの投手は投げ終わってからまとめてデータを見る習慣があった中で、ダルビッシュ選手のこの姿勢は、周囲の選手たちのデータへの認識を一変させた。翌日には佐々木朗希選手も同じように1球ごとに確認するようになり、その後、ほぼすべての侍ジャパンの投手が1球ごとにデータを見るようになったんだ。
奈美 : 意識の高いトップ選手たちが、感覚だけで投げずに、データで自分の投球を客観視し始めたってことね。
翔平 : まさにその通り。星川さんがダルビッシュ選手と大谷翔平選手に、どの項目を見ているか尋ねたところ、二人は「全般的に見て、自分の感覚とデータが合っているかどうかを確認している」と全く同じ回答をしたんだ。つまり、彼らは「投げたい球」という「仮説」を持っていて、実際に投げた球がその通りになっているかをデータで「仮説検証」しているんだね。これは「感覚だけで投げる」傾向のあった日本の投手と、MLBの投手の決定的な差異かもしれないと指摘されているよ。
奈美 : すごい。大谷選手は打撃でもデータを使っていたんでしょう?
翔平 : うん。大谷選手は、名古屋での打撃練習でも「トラックマン」でのデータ記録を星川さんに依頼したんだ。NPBでは打撃練習で「トラックマン」のデータ計測を依頼する打者はほとんどいなかったから、これは珍しかった。大谷選手はさらに「ブラスト」というバットのグリップに装着するスイング計測機器も使っていた。彼は打撃練習中も、打球速度を1球ごとに当時の通訳の水原一平さんとチェックしていたそうだよ。
奈美 : 彼らがデータを使って、いかに緻密に自分を管理していたかがわかるわね。「自分の感覚」と「データ」が合っているかどうかを突き合わせる、つまり「仮説検証」を徹底していく。トップアスリートほど、感覚ではなくデータで裏付けを取る習慣があるってことね。アナリストって、そういう選手のサポートをするの?
翔平 : もちろん。アナリストの仕事は、データ収集や分析だけでなく、そのデータを選手に理解できるように説明する「言葉の力」も重視されるようになってきている。さらに、投打の動作解析を行うバイオメカニクスの専門家も「アナリスト」の領域に入ってきているんだ。埼玉西武ライオンズの平良海馬投手みたいに、自分で計測機器を使って球種を磨いたり、フォームを調整する選手も増えている。
奈美 : 昔ながらの根性論や経験則だけでは通用しない時代になったんだね。
翔平 : その通り。さらに面白いのは、MLBでは勝利数や打率、打点といった従来の指標はもはや重視されていなくて、OPSやWARといった、より客観的に選手の貢献度を評価する新しい指標が使われているんだ。日本でもこの流れは止められないと筆者は指摘している。
奈美 : データが野球の「価値観」そのものを変えているのね。
翔平 : そうなんだ。この本を読むと、単にデータ活用が進んでいるという話だけじゃなくて、日本の野球界の歴史的な記録へのこだわりや、データ野球を支える企業や、アマチュア界の取り組み、それに「お股ニキ」のような異色の存在まで、野球界の深層が描かれている。
奈美 : 何、その 「お股ニキ」って(笑)?
翔平 : 彼は野球界における「素人」が切り拓いたデータの世界を代表する人物で、「野球アナリスト界のブラック・ジャック」と称されているんだ。
奈美 : ブラック・ジャック?無免許の天才外科医みたいに、正式な肩書きがないってこと?
翔平 : その通り。彼は野球歴がほとんどなく、少年野球でやめて、その後に草野球をしていた程度だ。しかし、家で野球を見ながら、その投球や変化球についてツイッター(現X)で語り始めたんだ。彼は自分の変化球に関する「感覚」がプロ並みにあると感じていて、MLBの公開データ(PITCHf/xやスタットキャスト)と実際の映像を比較することで、その感覚とデータが繋がったんだ。
奈美 : 経験がないのに、なぜそんなに有名になったの?
翔平 : 2015年頃、ダルビッシュ有選手に対して彼が技術面についてツイートしたところ、ダルビッシュ選手本人から連絡があり、お股ニキの指摘が「正しい」と認められたのがきっかけだ。その後、ダルビッシュ選手と約5年間、メールなどで投球について議論し、2019年〜2020年頃にはダルビッシュ選手の投球に大きな影響を与えたんだ。
奈美 : トッププロが、野球経験のない素人の意見を取り入れたなんて、信じられないわ。
翔平 : だからこそ彼は異色なんだ。今では「ピッチングデザイナー」として多くのプロ選手(千賀滉大選手や藤浪晋太郎選手など)にアドバイスをしていて、アマチュア野球からの指導依頼も多い。彼は、自分をアナリストと選手の「間を取り持つ」役割だと認識している。彼の指導ポリシーは、投球を「自然現象」と捉え、打者にとって打ちにくい軌道のボールを、その投手のフォームに合うように少しアレンジして投げられるようにすることだ。
奈美 : データ分析の知識や、選手の感覚と結びつける能力があれば、経験がなくてもプロの現場で活躍できる時代なんだね。すごく興味が出てきたわ。読んでみようかな!
翔平 : ぜひ!きっと、野球を見る目が変わるはずだよ。
