なぜ、その言葉で人は動くのか? 『ことばの戦略』に学ぶ! 言葉の「6つの力」を使いこなす方法
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翔平: 奈美さん、今日は『ことばの戦略』という本について話そうと思うんだ。ジョーナ・バーガーさんという方が書かれたんだけど、たった一言で物事が大きく変わる、言葉にはすごい力があるって教えてくれるんだよ。
奈美: へえ、たった一言でですか?なんだか魔法みたいですね。
翔平: まさに「魔法の言葉」なんだ。例えば、著者の息子さんであるジャスパーくんは、1歳くらいのときに「ピーズ」(お願い)という言葉を覚えたんだけど、何か欲しいものがあるときに、まずは「抱っこ」とか「ヨーグルト」とか言ってみるんだ。でも、もしすぐに手に入らないと分かると、目をまっすぐ見て「ピーズ」と言うようになったんだって。この「ピーズ」を付け加えるだけで、願いが叶いやすくなることをジャスパーくんは学んだんだよ。言葉に人を動かす力があると、幼くして知ったんだね。
奈美: かわいい!でも、そんな小さな子どもでも、言葉の力を使いこなすなんて驚きです。
翔平: そうだよね。僕たちは普段、伝えたい「意図」についてはよく考えるけど、その意図を伝えるために「どんな特定の言葉を選ぶか」には、あまり注意を払わないって、この本は指摘しているんだ。でも、言葉を選ぶことの重要性を証明する面白い実験があるよ。1970年代後半にハーバード大学の研究チームが、ニューヨーク市立大学の図書館でコピー機を使っている人に順番を譲ってもらう実験をしたんだ。 ある研究員はただ「すみません、5ページだけなんですが、先に使わせてもらえませんか?」と頼んだ。別の研究員はそれに「というのも、ちょっと急いでいるものですから」と理由を付け加えたんだ。すると、理由を説明した方が、そうでない方よりも50%も多くの人に順番を譲ってもらえたんだよ。
奈美: 「というのも」って一言と理由を付け加えただけで、そんなに差が出るんですね!
翔平: もっと驚くのは、その理由が意味のないものでも効果があったことなんだ。「すみません、5ページだけなんですが、先に使わせてもらえませんか?というのも、コピーをしなくちゃならなくて」という、分かりきった理由を言った場合でも、説得力は増大し、正当な理由を示したときと同じくらいの効果があったんだ。つまり、理由の中身が重要なのではなく、「というのも(because)」という言葉自体が持つ力が大きかったんだね。
奈美: それってすごい!どうしてそんなことがわかるんですか?
翔平: こうした言葉の隠れた力を解き明かせるようになったのは、近年、言語を追求する新しい科学が進展したからなんだ。機械学習や数理言語学、自然言語処理(NLP)といった技術の進歩と、電子メールから会話の中身まであらゆるものがデジタル化されたことで、言葉を分析する能力が飛躍的に向上したんだ。この著者自身も「LIWC」というコンピュータープログラムを使って、数千本の新聞記事を分析し、記事の人気を左右する要因を探る研究から、言葉の力の奥深さに気づいていったんだよ。
奈美: なるほど、科学的に言葉を分析できるようになったんですね。それで、この本ではどんな「魔法の言葉」が紹介されているんですか?
翔平: この本は、言葉の持つパワーを大きく6つのカテゴリに分けて解説しているんだ。
「アイデンティティ」と「主体性」の力
「自信」の力
「質問」の力
「具体性」の力
「感情」の力
「類似性」と「相違性」の力
これらの力を理解し、適切に使うことで、他人を説得したり、人間関係を深めたり、家でも職場でもより良い結果を出せるようになるんだ。
奈美: ひとつずつ詳しく教えてください!
翔平: じゃあ、まず最初の「アイデンティティと主体性の力」について話そうか。 スタンフォード大学のビング・ナーサリー・スクールという幼稚園での研究があるんだ。4歳児と5歳児のグループに「お片づけ」をお願いするんだけど、研究チームはあえて子どもたちが遊ぶことに熱中している時に片付けを頼んだんだ。あるグループには「手伝う(help)」ように頼み、別のグループには「助手になって(helper)」と頼んだんだ。結果、「助手になって」と頼んだグループの方が、実際に片付ける子どもが約38%も多かったんだ。
奈美: 「手伝う」と「助手」…たった2文字の違いなのに、そんなに変わるんですね!
翔平: そうなんだ。その答えは、動詞と名詞の違いにあるんだ。動詞で行動を促すよりも、名詞で「~する人」というアイデンティティに言い換える方が、人はその行動を自分の本質的なものと捉え、行動に移しやすくなるんだ。例えば、「ずるをするな」よりも「ずるいやつになるな」と言われた方が、不正行為に手を染める人の数が半分以下になったという研究もあるんだよ。
奈美: 自分自身が「ずるい人」になる、と認識するから避けたくなるんですね。
翔平: その通り。もう一つ、誘惑に打ち勝つ方法についてだよ。健康的な食事をしようと頑張っていても、ピザに誘われたときに「私はチョコレートケーキは食べられない(I can't)」と言うのと、「私はチョコレートケーキは食べない(I don't)」と言うのでは、後者の方が誘惑に耐える力が2倍になったんだ。「~できない」は外部からの制約を感じさせるけど、「~しない」は自分がコントロールしている感覚を与えてくれるからなんだ。目標達成には「~しない」が有効ってわけだね。
奈美: 「~しない」の方が自分の意思で決めている感じがしますね。使ってみよう!
翔平: 次に、「自信の力」についてだね。ドナルド・トランプの演説は文法的に洗練されてないし、単純な言葉の繰り返しが多いんだけど、彼がなぜ多くの人を引きつけるかっていうと、彼が自信に満ち溢れているように見えるからなんだ。 弁護士が法廷で証言する際も、あいまいな表現(ヘッジ)を避けて、断定的な話し方をする方が、聞き手は「有能で信頼できる人物」だと感じ、言われた言葉を信じやすくなるんだ。例えば、金融アドバイザーを選ぶ実験では、予測の正確さが同じでも、より強い自信を示すアドバイザーを選ぶ人が多かったんだ。 あと、話すときに「あー」「んー」みたいなフィラー(ためらいの表現)を避けることも、伝達者の力強さや権威を損なわないために重要なんだ。そして、過去形ではなく現在形を使うことで、意見が客観的な事実のように聞こえ、説得力が増すんだよ。例えば、「このレストランの料理はうまかった」よりも「うまい」と言う方が、多くの人がそのレビューを有益だと感じるんだ。 ただし、意見が対立しやすいテーマでは、あえて自身の意見に疑問を示すことで、相手にオープンな姿勢を見せ、かえって説得力が増す場合もあるんだ。
奈美: なるほど、自信を見せる言葉と、あえて不確実さを見せる言葉の使い分けが重要なんですね。
翔平: その通り。3つ目は「質問の力」だよ。何か困ったことがあって、人に助言を求めるのって、自分が無能に見られるんじゃないかって心配することがあるよね。でも、実際には、人に助言を求めると、相手は自分の能力を低く見るどころか、むしろ「より高く」評価するんだ。なぜなら、人は自分が賢いと感じるのが好きだから、助言を求めることは相手の自尊心をくすぐるんだね。初対面の人とのデートの実験では、質問を多くする人ほど、2回目のデートに誘われる可能性が高かったんだ。相手の話に興味を持ち、もっと深く知りたいという関心を示すシグナルになるからだよ。それから、答えにくい質問をされたときに、正直に答える代わりに、テクニックも有効だ。これは、相手からの注意を逸らしつつ、自分が真面目に取り組んでいる姿勢を示すことができるんだ。隠したがっている情報を引き出すには、「問題はありませんよね?」のような「問題がない」という前提の質問ではなく、「どんな問題がありますか?」のように「問題がある」ことを前提にした質問をする方が、相手が正直に答える可能性が高まるんだ。 あと、アーロン夫妻が考案した「ファスト・フレンズ」というテクニックがあるんだけど、これはシンプルな質問から始めて、徐々に深い質問へと進むことで、短時間で親密な関係を築ける方法なんだ。自己開示を少しずつ促していくことで、信頼関係がスムーズに築かれるんだよ。
奈美: 質問って、単に情報を得るだけじゃないんですね。人間関係にも深く関わるのか…。
翔平: そうなんだ。4つ目は「具体性の力」について。カスタマーサービスでの電話対応の研究では、係員が「その品があるかどうか調べます」ではなく「そのライムグリーンのナイキを探してきます」というように具体的な言葉を使うと、顧客満足度が大幅に上がったんだ。具体的な言葉は、相手の話に注意を払い、理解しようと努力していることを示すシグナルになるからだよ。顧客が話を聞いてもらえたと感じることが大切なんだ。 一方で、人は何かについて詳しくなると、専門用語や抽象的な言葉を使いがちになる。これを「知識の呪い」と呼ぶんだ。例えば、「デジタルトランスフォーメーション」を「実店舗だけでなくオンライン上でも客がものを買えるようにすること」と言い換えるように、相手が頭の中でイメージしやすい言葉を選ぶことが大事なんだ。 でも、例外もある。スタートアップが投資家から資金を調達する「ピッチ」では、抽象的な言葉の方が有利なんだ。例えば、配車サービス「ウーバー」を「タクシーを簡単に呼ぶためのスマートフォンアプリ」と具体的に説明するよりも、「便利で、信頼性が高く、誰でも簡単にアクセスできる交通ソリューション」と抽象的に表現する方が、投資家はより大きな市場規模と成長の可能性を感じ、出資につながりやすかったんだ。つまり、「どのように(How)」にフォーカスすれば具体的に、「なぜ(Why)」にフォーカスすれば抽象的に、という使い分けが重要になるんだ。
奈美: そうか、伝える相手と目的に合わせて言葉の具体性を調整するんですね。
翔平: 続いて、「感情の力」だ。人は成功した話ばかり聞きたがると思われがちだけど、そうじゃない場合もあるんだ。行動科学の実験では、能力が高い人がコーヒーをこぼすような小さな失敗をすると、かえって好感度が上がることが示されたんだ。これを「しくじり効果」と呼ぶんだよ。完璧すぎる人には共感しにくいけど、人間らしい弱点を見せると親近感が湧くんだね。 また、良い物語は、ただポジティブなことばかり続くのではなく、ポジティブな場面とネガティブな場面が交互に現れる「ジェットコースター」のような構成を持っているんだ。シンデレラの物語や『スター・ウォーズ』も、ハッピーな出来事だけでなく、苦難を乗り越える場面があるからこそ、面白くて人を引きつけるんだよ。 さらに、不確実な感情(不安や当惑)を喚起する言葉は、読者の注意を持続させる効果があるんだ。次に何が起こるか分からないと、人はそれを解消したくて読み続けるからね。 そして、商品の種類によっても、感情の言葉の効果は変わるんだ。音楽や旅行のような「快楽的な」商品には感情の言葉が有効だけど、接着剤やトースターのような「実用的な」商品には、機能性を重視した感情を込めない言葉の方が説得力があるんだよ。
奈美: なんだか奥深いですね。失敗談も話し方によっては強みになるし、物語も感情の起伏が大事なんだ。
翔平: うん。最後に「類似性と相違性の力」について話そう。 人は、周囲の人と似たような言葉遣いをするほど、その集団に馴染みやすく、成功しやすくなることが分かっているんだ。例えば、ある企業でのメールの言語スタイルを分析した研究では、同僚と類似した言語スタイルを持つ従業員は、昇進する確率が3倍高く、ボーナスも多かったんだ。逆に、言語スタイルが合わない人は解雇される確率が高かったりするんだ。言語の類似性は、会話をスムーズにし、仲間意識を高めてくれるんだね。 だけど、音楽の世界では逆なんだ。リル・ナズ・Xの「オールド・タウン・ロード」という曲は、カントリーとラップの要素を混ぜ合わせた「非定型的」な曲だったんだけど、それが大ヒットにつながったんだ。音楽のように革新性や刺激が重視される分野では、あえて違いを取り入れることの方が有利に働くんだよ。 物語の「速さ」も重要で、最初はゆっくり始めて、観客を世界に引き込んだら、徐々にスピードを上げていく方が、観客を強く惹きつけることができるんだ。
奈美: 類似性が良い時と、相違性が良い時があるんですね。職場の文化とか、コンテンツの内容によって使い分けるのが大事なんだなぁ‥‥。
翔平: そういうことだね。そして、この本では言葉が持つもう一つの役割として、言葉が「話している人自身」や「社会の姿」を映し出すことも紹介しているんだ。 例えば、シェイクスピアの戯曲「二重の欺瞞」の作者が誰なのかという何世紀もの謎が、言葉の使われ方を分析するテキスト分析(NLP)によって、シェイクスピアとジョン・フレッチャーの共作である可能性が高いと解き明かされたんだ。言葉には、まるで指紋のようにその人の痕跡が残るんだね。 さらに、ローン申請書の文章を分析すると、債務不履行に陥りやすい人の特徴が言葉に現れることも分かったんだ。そして、歌詞の分析からは、時代とともに女性に対する描写に微妙な性差別的な偏見が含まれていたり、警察官のボディカメラ映像の分析からは、白人ドライバーと比較して、黒人ドライバーに対してより敬意に欠ける言葉遣いがなされているといった、社会に根深く存在する偏見が見えてくるんだ。
奈美: 言葉って、そんな深いところまで「見える」んですね…。個人の特性から社会問題まで。
翔平: そうなんだ。最後に、この本の冒頭のジャスパーくんの話にも繋がるんだけど、子育てにも応用できる話があるよ。コロンビア大学の研究で、子どもの「能力」(例:「きみは頭がいいね」)を褒めるよりも、「努力」や「プロセス」(例:「きみはがんばって問題を解いたんだね」)を褒める方が、子どものモチベーションが高まり、学習意欲が向上したんだ。能力を褒められると、失敗したときに「自分は頭が悪い」と感じて努力を諦めてしまうことがあるんだね。
奈美: それ、私も実践したいです!「さすが」より「よく頑張ったね」ってことですね。
翔平: そうだよ。この本は、私たちの日常的なコミュニケーションの質を高め、ビジネスや人間関係、ひいては社会の課題解決にまで役立つ、「ことばの戦略」が詰まっているんだ。適切な言葉を適切なタイミングで使うことができれば、それはまさに魔法のような力を発揮するんだよ。
奈美: 翔平くん、すごく勉強になりました!言葉って、こんなに奥深くてパワフルなものだったんですね。明日から私も、この本で勉強して、もっと言葉を意識して使ってみます!
翔平: そうだね。奈美さんもきっと、言葉の魔法使いになれるよ!
