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「先回りの服従」としての忖度 : ドイツ的論理思考で解剖する、私たちが知らなかった日本語の深淵

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翔平:奈美さん、マライ・メントラインっていうドイツ出身の翻訳家が書いた『日本語再定義』という本を知ってるかな?

奈美:名前は聞いたことがある気がするけど、どんな本なの?日本語の正しい使い方を教えてくれる辞書みたいなもの?

翔平:いや、もっと刺激的な内容だよ。マライさんは日本に長く住んでいて、自分のことを「職業はドイツ人」と自称しているんだけど、彼女ならではのドイツ的な論理思考で、現代のパワーワードの本質を暴き出そうとするエッセイなんだ。

奈美:パワーワードを暴き出す……?なんだか面白そうね。具体的にどんなふうに紹介されているのかしら。

翔平:マライさんは、私たちが意味を曖昧にしたまま使っている言葉の裏側を「開かずの間」と呼んでいて、その入口をこじ開けることに執着しているんだ。例えば、奈美さんもよく知っている「忖度」という言葉についても、かなり深いところまで踏み込んでいるよ。

奈美:忖度って、相手の気持ちを推し量るっていう、日本特有の奥ゆかしい文化の話よね?それをどう「再定義」しているの?

翔平:彼女はこの言葉をドイツ語に訳すとどうなるかを分析して、「発言なしの指示」や「先回りの服従」という、非常にストレートで即物的な表現を当てはめているんだ。これを聞くと、日本語の持つ柔らかいニュアンスが、急に鋭い意味を持ち始めると思わないかい?

奈美:「先回りの服従」……。そんなふうに言われると、急に怖い言葉に聞こえてくるわね。単なる思いやりとは違う、何か強い力が働いているような感じがするわ。

翔平:彼女の洞察はそこからさらに加速するんだ。この「忖度」のメカニズムが、歴史の中でいかに恐ろしい結果を招いたかという例として、ナチスの高官だったラインハルト・ハイドリヒという人物の行動を引き合いに出して解説しているんだよ。

奈美:えっ、日本の流行語の話が、ナチスの歴史にまで繋がっていくの?想像もつかない展開だわ。

翔平:さっきも言ったようにマライさんは、「忖度」をドイツ語の概念で「発言なしの指示」や「先回りの服従」と解釈しるけど、ハイドリヒはこの「先回りの服従」の天才だったんだ。実は、ユダヤ人絶滅をヒトラーが直接命じた公文書は存在しないという説があるんだけど、ハイドリヒは「総統は物理的現実としてそれを切望しているはずだ」と強固に忖度し、自ら進んで絶滅政策を国策として決定づけてしまったんだよ。

奈美:明確な命令がないのに、自分の「忖度」だけでそんな恐ろしい計画を組織的に進めてしまったということ?

翔平:そうなんだ。さらに彼は、周囲が良心の呵責を感じずに悪を実行できるよう、言葉を巧みに言い換えるシステムを作り上げた。例えば、直接的な表現を避け、「移送」や「最終的解決」といった免罪符としての言い換え語を暗号のように全方位に拡散させ、組織全体に忖度によるコミュニケーションを浸透させたんだよ。

奈美:言葉を言い換えることで、個人の罪の意識をシステムの中に溶かし込んでしまったのね……。

翔平:マライさんは、彼を単なる有能な官僚ではなく、「忖度システムをプロデュースする人」と呼んでいる。 言語的な定義の裏をかいて、非言語的なやり取りで人心をコントロールし、あたかも「公益」であるかのように悪を具現化させた彼の異才こそが、忖度の持つ最も恐ろしい側面を照射しているというわけだ。

奈美:私たちが何気なく使っている「忖度」という言葉の裏側に、そんな底知れない歴史の闇が繋がっていたなんて驚きだわ。

翔平:言葉を言い換えて良心の呵責を消し去り、非言語的なコミュニケーションだけで組織を動かしていく……。マライさんは、「忖度」という窓を通して、人間の心理や権力の恐ろしい本質を照射しているんだよ。

奈美:ただの言葉遊びだと思っていたら、とんでもなく知的な刺激に満ちた内容なのね。彼女がどうやってその結論にたどり着いたのか、そのプロセスがすごく気になるわ。

翔平:ドイツ的な「理屈」が日本的な「感性」を解剖することで、僕たちが普段使っている言葉が、まるでパンドラの匣を開けたときのような未知のエネルギーを放ち始めるんだ。

奈美:話を聞いているだけで、自分が今まで使っていた言葉が全く違うものに見えてきそう。マライさんの視点で、他の言葉がどう定義されているのかも気になってきたわ。

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