「土下座して謝れ」と言いながら侵略を肯定した男 : 石原莞爾の矛盾が映し出す時代の狂気
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翔平 : 最近、昭和の戦争について深く掘り下げた本を読んでいるんだ。堀真清さんの『北一輝・近衛文麿・石原莞爾と大東亜戦争』という本なんだけど、これがなかなか興味深くてね。
奈美 : 歴史の本ね。タイトルにある三人の名前は聞いたことがあるけれど、どんな内容なの?
翔平 : この本は、なぜ日本が勝算の薄い戦争に突き進んでしまったのかを、外交の駆け引きだけでなく、彼ら三人の思想に焦点を当てて分析しているんだ。特に「国家生存権」というキーワードが重要で、国家が生き残るためには他国への進出も正当な権利だとする考え方が、どう戦争に結びついたのかを史資料からたどっているよ。
奈美 : 思想が戦争を動かしたということかしら。三人の中でも特に気になるエピソードはある?
翔平 : それなら、石原莞爾という人物に注目してみると面白いよ。彼は満州事変を主導した軍人として有名だけど、この本には「石原莞爾の甘え」という非常に印象的なトピックがあるんだ。
奈美 : 「甘え」?軍人さんなのに、なんだか意外な言葉ね。
翔平 : そうだね。石原は、1938年におこなった講演の中で、日本と中国の衝突を「兄弟喧嘩」のようなものだと表現しているんだ。
奈美 : 兄弟喧嘩だなんて、激しい戦争の実態とはずいぶんかけ離れているように感じるけれど。
翔平 : そこが彼の思想の複雑なところでね。彼は、日本が中国に対して利権を求めたことは「悪いには悪いが、日本が独立を保つためには仕方なかった」と言っている。そして、中国の人たちもそれを「同情的に見てくれてよいはずだ」とまで語っているんだよ。
奈美 : 自分たちの都合を相手に理解してもらおうとする、不思議な論理ね。
翔平 : さらに驚くべきことに、彼は同じ講演の中で、日本は中国に対して「土下座をして謝るべきだ」とも主張しているんだ。30年来の侵略行為を詫びるべきだとね。
奈美 : 謝るべきだと言いながら、一方で仕方なかったと正当化もしているの?
翔平 : その矛盾こそが、著者が指摘する「自国本位の思想」の危うさなんだ。石原は日本の行動を「必然的結果」だと捉えつつ、相手には同情を求め、それでいて道義的なポーズも取る。この本は、そうした彼の個人的なエゴや甘い認識が、結果としてアジアにどれほどの犠牲を強いることになったのかを鋭く突いているよ。
奈美 : どうしてそんな極端に矛盾した考えを持つようになったんだろう…。
翔平 : 本の中では、彼の信仰していた宗教の影響や、彼が描いていた「世界最終戦」という壮大なビジョンについても詳しく触れられている。彼の思想が単なる軍事計画ではなく、ある種の「夢想」と結びついていたことが分かると、当時の日本の空気がより立体的に見えてくるはずだよ。
奈美 : どんな夢想なの?
翔平 : 著者は、石原が描いた「世界最終戦論」という壮大なビジョンをある種の「夢想」と表現しているんだ。
奈美 : 「世界最終戦」……。名前からして、とても大きな話のように聞こえるわ。軍事的な計画のようなものなのかしら?
翔平 : 単なる作戦計画とは少し違うんだ。石原は、西洋文明の代表であるアメリカと、東洋文明の代表である日本がいつか雌雄を決する最終的な戦争が起き、その後に人類に「黄金世界」や「永久の平和」が訪れると本気で信じていたんだよ。
奈美 : 平和のために戦うという、逆説的な考えなのね。なぜそんな過激な結末を確信していたの?
翔平 : そこが彼のユニークなところで、軍事的な研究だけでなく、日蓮宗という宗教的な信仰が背景にあるんだ。彼は日蓮の予言を、自分の軍事科学的考察の傍証として使っていたんだよ。
奈美 : 宗教の予言が軍人の思想に結びついていたなんて。もう一人の、北一輝という人も同じような考えだったのかしら?
翔平 : 実は、北一輝も同じく熱心な法華経の信者で、二人の思想には共通する部分が多いんだ。北が描いた「夢想」は、強力な軍隊を中心とした「革命的大帝国」や「大軍営」を日本に建設することだった。
奈美 : 大軍営の国家……。それを実現するために、彼は何をしようとしたの?
翔平 : 彼は『日本改造法案大綱』という有名な本を書いて、まずは国内の財閥や特権階級を排除して国家を改造すべきだと説いた。そして、改造された日本が、増え続ける人口を養い生き残るための「国家生存権」を行使して、シベリアやオーストラリアといった広大な土地を手に入れるべきだと主張したんだ。
奈美 : 生き残るために他国の土地が必要だという、自国本位の強い主張ね。
翔平 : 彼は日本を「アジアのギリシャ」になぞらえて、白人列強の圧制からアジアを解放する盟主になろうとしていた。石原の「最終戦」も北の「大帝国」も、壮大な理想を掲げながら、その実態は武力による現状打破を目指すものだったことが、この本を読むとよくわかるよ。
奈美 : 二人の個人的な信仰や理想が、どうやって日本全体を巻き込む「国家生存権」という思想にまで膨らんでいったのか……。その過程を詳しく知るのが少し怖くもあるけれど、知らなければいけない気がする。その本、どうしても読みたいわ。
