「当たり前」は誰かに作られている...私たちの思考を支配する「デザイン」という名の見えないルール
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翔平:奈美さん、ドナルド・ノーマンの新しい本を読んでいるんだけど、すごく面白い視点なんだ。
奈美:あの『誰のためのデザイン?』で有名なノーマンさん? 今回はどんな内容なの?
翔平:『より良い世界のためのデザイン』という本でね、僕たちが目にしているもののほとんどすべてが「人工的」で、デザインされたものだと言っているんだ。
奈美:ほとんどすべてって……自然の中にある木や花もそうなの?
翔平:庭の植物や盆栽のように、人が手を加えたり植えたりしたものもそうだし、「雑草」や「害虫」という呼び名すら人間が勝手に付けたレッテルなんだって。
奈美:確かに、人間が区別しているだけかもしれないわね。
翔平:特に面白いのが、僕たちが当たり前だと思っている「時間」や「季節」さえも、実は人工的にデザインされたシステムだという指摘なんだ。
奈美:時間や季節がデザインされたもの? どういうこと?
翔平:例えば、一日は24時間で一時間は60分という区切りは、科学や技術の都合に合わせて決められた恣意的なものに過ぎないんだ。
奈美:でも、時間は昔からそう決まっているものだと思っていたわ。
翔平:科学者は正確さを好むから原子の振動で1秒を定義したけれど、それは僕たちの主観的な経験とはかけ離れているんだよね。
奈美:主観的な経験、っていうのは?
翔平:お腹が空いたから食べるんじゃなくて、「時計が12時になったから昼食にする」というような、体の要求よりも時刻を優先する生活スタイルのことだよ。
奈美:ああ、確かに私たちは時計に支配されている気がする。
翔平:季節もそうで、カレンダー上の日付で「今日から夏」と決めるのは天文学的な都合だけど、本来の生物としての僕たちには、その日の実際の天候や植物の変化の方が重要なはずなんだ。
奈美:そう言われると、自然のリズムを無視して生きている気がしてくるわ。
翔平:こういう「時計に支配される生活」は、産業革命の時に工場で人々を同じ時間に集めて、機械のように効率よく働かせるためにデザインされたものなんだって。
奈美:私たちの今の働き方や生き方の根っこに、そんな昔のデザインが関わっていたのね。
翔平:怖いのは、この人工的なルールがあまりに自然に見えるから、他の選択肢を考えるのが難しくなっていることなんだ。
奈美:何だか、自分の生活を全然違う目で見られそうな気がしてきた。
翔平:実は、人工的なのは時間だけじゃないんだ。僕たちが国の豊かさを測るのに使う国内総生産(GDP)も、実はかなり歪んだ人工的な指標なんだよ。
奈美:でも、国がどれだけ成長したかを知るための大切な基準なんじゃないの?
翔平:それがね、GDPは単に国内で支出されたお金の総和を計算しているだけだから、人々の本当の幸せや生活の質をまったく反映していないんだ。
奈美:お金がたくさん回っていれば、それだけみんなの暮らしも良くなっている気がするけれど。
翔平:そこが落とし穴でね。驚くことに、公害の除去にかかる費用や、犯罪に対応するための警察の支出までもが、GDPでは「経済的なプラス」としてカウントされてしまうんだよ。
奈美:えっ、環境を汚したり事件が起きたりして、その対応にお金がかかるほど、経済が成長したことになっちゃうの?
翔平:そうなんだ。だからノーマンは、単一の数字に頼るのをやめて、「教育」や「健康」「公平性」といった、人々が本当に大切にしている価値を可視化する「情報ダッシュボード」を使うべきだと提案しているんだ。
奈美:数字の裏にある本当の意味を見ようっていうことね。
翔平:そう、「測定できるものが大事なのではなく、大事なものを測定すべきだ」というのがこの本の強いメッセージなんだよ。
奈美:お金という物差しだけで世界を見るのをやめると、景色が全然違って見えそう。
翔平:さらに著者はね、複雑なシステムを理解するには、数字による測定だけじゃ不十分で、そこに「ストーリー」を組み合わせることが不可欠だと言っているよ。
奈美:ストーリー? 科学的なデータがあれば、客観的に正しく理解できる気がするけれど。
翔平:数字は正確さをもたらしてくれるけれど、それは状況を抽象化したもので、肝心の「文脈」が抜け落ちてしまうんだ。例えば、病院の回診で、医師が患者さんの顔を見ずに、画面に並ぶ検査数値のデータだけを見て診断を下すような場面を想像してみて。
奈美:それじゃあ、患者さんはただの「数字」として扱われているみたいで、少し寂しいわね。
翔平:数値は「事実」を教えてくれるけれど、その人がどんな生活を送り、何を大切にしているかというストーリーがあって初めて、その事実に深い「意味」が宿るんだよ。
奈美:なるほど。デザインという仕事も、そうやって数字の奥にある意味を見つめていくものなの?
翔平:その視点がさらに進化したのが、ノーマンが提唱する「人間性中心デザイン」なんだ。これまでの「人間中心デザイン」とは、似ているようで大きな違いがあるんだよ。
奈美:今までの「人間中心」と、新しく出てきた「人間性中心」……どう使い分けられているのか気になるわ。
翔平:これまでの「人間中心デザイン」は、主に個人の使い勝手や、目の前にある問題をどう解決するかに焦点を当ててきたんだ。でも「人間性中心」になると、対象が人間だけじゃなく、あらゆる生き物や地球環境を含めた生態系全体にまで広がるんだよ。
奈美:私たち人間だけが良ければいい、という考え方から抜け出すのね。
翔平:数十年先という長期的な影響を視野に入れることも、新しい原則の一つなんだ。それに、プロのデザイナーが一方的に答えを決めるのではなく、地域の人たちが自分たちの手で問題を解決できるように、デザイナーは「促進役」や「助言者」として寄り添うべきだと説いているよ。
奈美:デザイナーの役割が、何かを作る人から「みんなを支える相談役」に変わっていくみたいね。未来の地球をどうデザインしていくべきか、その新しい形を自分でも確かめてみたくなったわ。
