デヴィッド・ハーヴェイ 『反資本主義』 徹底解説 : 新自由主義の危機から〈真の自由〉へ
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翔平 : 奈美さん、最近「反資本主義」っていうすごく面白い本を読んだんだけど、知ってる?デヴィッド・ハーヴェイっていう世界的に有名なマルクス主義理論家が書いたんだ。
奈美 : へえ、どんな内容なの?マルクス主義って聞くと、ちょっと難しそうなイメージがあるんだけど…。
翔平 : そう思うよね。でも、この本は、ハーヴェイがポッドキャストで現代資本主義を分析した内容をまとめたもので、彼のこれまでの広範な著作活動への入門書にもなってるから、初めて読む人にも分かりやすいんだ。
奈美 : ポッドキャストから生まれた本なんだ!それなら、ちょっと親しみやすいかも。どんな点が特に面白かった?
翔平 : うん、まずね、この本は「新自由主義の危機から〈真の自由〉へ」っていう副題があるんだけど。ハーヴェイは、新自由主義は深刻な問題だけど、本当の問題は「資本主義そのもの」だと言ってるんだ。
奈美 : 資本主義そのもの、か。具体的にはどういうこと?
翔平 : 大きく分けて3つの問題点を指摘してるよ。
1 環境危機:ハーヴェイは、以前の考え方を変えるほど、この問題に危機感を抱いているんだ。特に2008年の金融危機以降、グローバル資本主義は中国などの経済拡大に依存してきた結果、大気中の二酸化炭素総量が危険なレベルまで増大してる。だから、二酸化炭素の回収・貯留技術や農業技術の革新だけでなく、資本蓄積そのものを変える必要性を訴えているんだ。
2 略奪活動:これは現代の社会的不平等の根源だと言えるね。マルクスが言った「本源的蓄積」(賃金労働力の暴力的形成)や、ローザ・ルクセンブルクが指摘したような「資本主義的市場の強制的創出」が今も続いていると説明されている。さらにハーヴェイは、生産や消費と関係ない蓄積活動も発達していると指摘していて、これを「略奪による蓄積」と呼んでいるんだ。例えば、企業の集中、都市の高級化、土地の争奪、年金負担義務の放棄、富裕層優遇の税制、そして債務奴隷状態の強制などがこれに当たるんだよ。そして、これらの略奪の最前線にいるのが、いわゆる「新しい労働者階級」で、サービス産業や物流産業の不安定雇用労働者が多く、人種やジェンダーによる分断も抱えているんだ。
3 地政学的対立関係:これはハーヴェイ独自の貢献とも言える分析で、資本の運動形態には、貨幣資本、商品資本、生産資本という3つがあるんだけど、最も移動しやすいのは貨幣資本なんだ。資本の過剰蓄積が起きると、それを一時的に解消するために「空間的回避」という、余剰資本を別の地域に移転させて市場や生産拠点を新たに作る動きが起こる。これが結果的に、新たな過剰蓄積や経済危機の火種になり、さらには国家間の地政学的覇権争いにまで転換するんだ。中国の「一帯一路」構想も、この空間的回避の一例として挙げられているよ。
奈美 : なるほど、資本主義が抱えている根深い問題がよくわかるわ。新自由主義っていうのは、これらの問題をさらに悪化させるもの、ってことかな?
翔平 : その通り!ハーヴェイは、新自由主義は「資本主義的階級権力を回復・強化するための一つの政治的階級プロジェクト」だと明確に言ってるんだ。かつては「他に選択肢はない」というスローガンで正当化されてきたけど、2008年の金融危機以降はその正当性が失われてしまった。生き残るために、ネオ・ファシズム的な勢力との連携を強めている、と分析しているんだ。ブラジルのボルソナロ政権やアメリカのトランプ政権がその具体例として挙げられているよ。
奈美 : 新自由主義と極右勢力が結びついているなんて、かなり衝撃的ね。じゃあ、この本は、ただ問題を指摘するだけじゃなくて、解決策も提示してるの?
翔平 : もちろん!ハーヴェイは、「真の自由」や「何でも望むことのできる自由な時間がある世界」、基本的に必要となるものすべてが満たされる社会が必要だと主張している。 そして、この「真の自由」を実現するためには「集団的活動」が不可欠だと言っている。この「集団的活動」は、単なる個人主義的なものではなく、個人の自由な発展を究極の目標としているんだ。新型コロナウイルス流行時のロックダウンや基礎食品の無償提供、無料医療処置、オンラインでの交流なども、この「集団的活動」の一例として挙げられているよ。
奈美 : 「真の自由」か…すごく心に響く言葉ね。でも、そのためにはどうやって人々が協力し合えるようになるの?
翔平 : そこが重要なポイントで、ハーヴェイは「民衆教育」の重要性を強調しているんだ。特に、現場で困難を抱えている人々が、自分たちの社会を認識し、自ら分析して戦略を立てられるように、知識人との「共同」と「討論」を通じて「有機的知識人」を育成する必要があると言っている。例えば、オンライン講座や勉強会を通じて、資本主義の構造を理解する機会を提供することも、その一環なんだ。
奈美 : なるほど。知識を広げて、みんなで考えて行動していくってことね。すごく納得したわ!ところで、この本にはロシアとウクライナの戦争についても書かれてるの?
翔平 : うん、日本語版には「付録」として、ハーヴェイが2022年2月25日にブログにアップした「ロシアのウクライナ侵攻をどう見るか暫定的な声明」が収録されているんだ。彼はこの小論で、ロシアの行動を批判しつつも、冷戦後のロシアへの屈辱的な対応やNATOの東方拡大といった西側の挑発的アプローチが、現在の地政学的緊張を招いた一因だと示唆しているんだ。そして、核戦争の脅威をはらむ今の世界で、平和を求める民衆運動の再起が必要だと結んでいるよ。
奈美 : うわあ、本当にタイムリーな内容ね。これはぜひ読んでみたいわ!書評で平川克美さんもこの本を「今なぜ世界はこうなのかを改めて再確認するための一級の手引書」と高く評価しているみたいだし。翔平くん、詳しく教えてくれてありがとう!
翔平 : どういたしまして!本当に示唆に富んだ内容だから、奈美さんも読んでみて、現代社会について一緒に考えられたら嬉しいな。
