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沈黙を破る日。――既読スルーを続けた僕が、ありのままで戻ることにした理由


はじめに:閉じ続けた、返信ボタン


頸損になってから、僕はほぼずっと「既読スルー」を続けていた。

中学・高校時代の旧友からの連絡も、前職で共に汗を流した仲間からの誘いも、今の職場の同僚からのメッセージも。

病院は家族以外、面会禁止ではあったが、返せなかったのは、指が動かなかったからじゃない。

「以前と同じ自分」として振る舞えない今の僕が、彼らの輪の中に戻れるのかどうか、わからなかったからだ。既読だけつけて、画面を閉じる。その繰り返しが、気づけば何ヶ月も続いていた。



第1章:「その他大勢」だったのではないか、という静かな恐怖


  「One of Them」

自分は彼らにとって、代わりのきく一人でしかなかったのではないか

その考えが頭をよぎった瞬間、僕は返信ボタンを閉じた。何度も、そうやって閉じてきた。

頸髄損傷という重たい事実を伝えることは、相手にとって単なる負担や困惑でしかないのではないか。沈黙を守り、記憶の中の元気な僕のままで消えていく方が、お互いにとって幸せなのではないか。

頭でそう考えながら、でも本当は、ただ怖かっただけだと思う。

そしてもう一つ、心の奥にあった恐れがある。

僕がこの状況を打ち明けた時、相手がどんな顔をするか、想像するだけで画面を閉じたくなった。「かわいそうに」という顔。

「どう接すればいいか分からない」という顔。あるいは、何も変わらずに接してくれた時の、自分の涙腺が持つかどうかという不安。

どれも、怖かった。



第2章:変わったのは「体という器」だけだ


先日、久しぶりに職場の同僚と電話した。

話の流れで笑おうとした瞬間、声が喉に引っかかった。

「あれ、どうした?」と聞かれて、うまく答えられなかった。頭の中には言葉があった。でも出てこなかった。

電話を切った後、しばらく天井を見つめた。

変わったのは心じゃない。それを外の世界へ伝えるための「体という器」だけだ。思考は以前と同じように動いている。誰かのために動こうとする気持ちも、物事を深く考える力も、失っていない。

ただ、それを伝えるための手段が、少し不自由になっただけだ。

でも「少し不自由」という言葉では追いつかない瞬間がある。久しぶりに会った人の顔を見て、何か言おうとして、言葉が出ない。その沈黙の2秒間が、以前の10倍くらい長く感じられる。

「頭はしっかりしてるんだけどな」

その言葉を、どれだけ飲み込んできただろう。



第3章:なぜ今、沈黙を破るのか


それでも今、沈黙を破ることにしたのには理由がある。

ひとつは、このままでは大切な繋がりが、静かに、自然に終わっていくからだ。既読スルーを続けていれば、誰も傷つかない。でも誰も近づいてこなくなる。

それは、僕が一番望まない未来だ。

もうひとつは、これからの人生にやるべきことが、まだたくさんあるからだ。親の介護、相続、子供たちの未来。自分の状態を伏せたままでは、大切な人たちと一緒に前に進めない。50歳という年齢は、そういう現実が次々と押し寄せてくる時期でもある。

そして、僕を支えてくれる妻や子供たちのためでもある。家族が一番近くで見ている。僕が自分の状況に折り合いをつけて、オープンにしていくことが、共に歩む家族の安心にも繋がると信じている。



第4章:同じように、画面を閉じ続けている人へ


これを読んでいる人の中に、同じように誰かへの返信を閉じ続けている人がいるとしたら、伝えたいことがある。

「以前と同じ自分」じゃなくていい。今の姿のまま、輪の中に戻っていい。

僕はずっと、それを自分自身に許可できなかった。

頸損に限らず、病気、怪我、介護、育児、メンタルの不調。理由は何であれ、「以前の自分でいられなくなった」と感じた瞬間に、人は静かに輪の外に出ていく。そして気づけば、戻り方がわからなくなっている。

でも、戻り方は一つでいい。

今の状態のまま、「久しぶり」と送るだけでいい。

うまく説明できなくていい。完璧に振る舞えなくていい。それでも、そこに存在することが、まず第一歩だと気づいた。




エピローグ:同情じゃなく、再会がしたい


同情してほしいわけじゃない。つきっきりの助けがほしいわけでもない。

ただ、また笑い合いたい。それだけだ。

直接会った時に、病状の説明に時間を割くのはもったいない。その時間は、これから作る新しい思い出のために使いたい。だからこそ、今ここで言葉にしておく。

「その他大勢」の一人だったかどうかは、これからの僕の生き方が証明していくだろう。

沈黙という殻を破ることから、始める。

静寂を破った結果についてはまた‥。



ここまで読んでいただきありがとうございます。
人それぞれとは言いますが、自分と同じ感覚を持った方の少しでもお役に立てれば幸いです。

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