ちび創作大賞のテーマ「風」 風と共にさりぬ。そして、私だけが残った。
ちび創作大賞のテーマ「風」
映画『風と共にさりぬ』より
Do As Infinity『柊』を添えて

正直に言えば、
私はこの映画を語れるほど詳しい人間ではない。
ただ、このタイトルだけは、
ずっと心のどこかに残っている。
風と共にさりぬ。
なんて美しくて、
なんて残酷な言葉だろうと思う。
風は目に見えない。
けれど、確かにそこにある。
頬を撫でることもあれば、
髪を揺らすこともある。
背中を押してくれることもあれば、
立っていられないほど強く吹きつけることもある。
そして何より、風は奪っていく。
時間を。
景色を。
人を。
暮らしを。
昨日まで当たり前だったものを。
気づいた時には、もうそこにはない。
人生とは、もしかしたら風に奪われ続けることなのかもしれない。
若さも。
夢も。
家族の形も。
信じていた未来も。
絶対に変わらないと思っていたものほど、ある日あっけなく姿を消す。
まるで、最初からそこになかったみたいに。
私は自分の人生を振り返る時、
どうしても明るい言葉だけでは書けない。
うまくいったこともある。
笑える話もある。
人に話せばネタになる出来事も、
それなりに抱えてきた。
けれど、その奥にはいつも、
言葉にしづらい風が吹いている。
選ばなかった道。
戻れなかった場所。
守れなかったもの。
伝えられなかった言葉。
それらは全部、風と共に去ってしまった。
もう取り戻せない。
人はよく言う。
「前を向こう」
「過去は過去」
「時間が解決する」
たぶん、それは正しい。
でも、正しい言葉が、
人を救うとは限らない。
過去は過去だと分かっていても、
胸の奥でまだ終わっていない出来事がある。
時間が経てば癒えるはずなのに、
時間が経ったからこそ重くなる記憶もある。
風化するものもあれば、
風にさらされて、
かえって輪郭がはっきりしてしまう傷もある。
私にとって、Do As Infinityの『柊』は、
そういう場所にある曲だ。
明るく背中を押してくれる歌ではない。
大丈夫だよ、と簡単に慰めてくれる歌でもない。
むしろ逆だ。
人はどうしようもなく寂しい。
大切なものはいつか失われる。
想いは届かないまま残ることがある。
そんな現実を、静かに突きつけてくる。
けれど、
だからこそ私はこの曲が好きなのだと思う。
綺麗ごとではないから。
痛みをごまかさないから。
失ったものを、なかったことにしないから。
私の名前に「柊」を使っているのは、
ただ好きな曲だからではない。
たぶん私は、この曲の中に、
自分の人生の影を見ている。
柊という植物には、とげがある。
触れれば痛い。
近づけば傷つく。
それでも冬の中で、静かにそこに立っている。
派手な花ではない。
誰かに褒められるために咲いているわけでもない。
ただ、寒さの中で枯れずにいる。
それが、私には妙にしっくりきた。
人生は、思っていたより優しくなかった。
もっと簡単に幸せになれると思っていた。
もっと自然に報われると思っていた。
真面目に生きていれば、
それなりの場所に辿り着けると思っていた。
でも実際は、そうではなかった。
頑張っても届かないものがある。
大切にしても壊れるものがある。
間違えていなくても、失うことがある。
そのたびに、風が吹いた。
私の中から何かをさらっていった。
若かった頃の自信。
誰かと一緒に描いた未来。
家と呼べた場所。
家族という形。
あの日の自分。
全部、風と共に去っていった。
それでも、不思議なことに、人は生きてしまう。
泣いても。
折れても。
誰にも言えない夜を越えても。
次の日には目が覚める。
腹も減る。
仕事にも行く。
電車にも乗る。
くだらないことで笑う日もある。
壊れたままでも、人は日常に戻される。
それは救いなのか、
残酷なのか、
今でもよく分からない。
ただ一つだけ分かるのは、
風にすべてを奪われたわけではなかったということだ。
残ったものがある。
歌だ。
私の人生には、いつも歌があった。
言葉にできない感情を、
代わりに歌が持っていてくれた。
誰にも説明できない痛みを、
歌だけが分かってくれる気がした。
『柊』は、私にとってそういう曲だ。
失ったものを取り戻してくれるわけではない。
過去を書き換えてくれるわけでもない。
けれど、失ったまま生きている自分を、
否定しないでくれる。
それだけで十分だった。
風と共に去っていったものは、
もう戻らない。
それは分かっている。
でも、
去っていったものがあったから、
今の私がいる。
痛みも。
後悔も。
別れも。
挫折も。
全部、私を削った。
だけど同時に、私の形を作った。
きれいな形ではない。
まっすぐでもない。
ところどころ欠けている。
それでも、これが私だ。
風に吹かれながら、
倒れそうになりながら、
それでもここまで来た私だ。
『風と共にさりぬ』という言葉を、
私はただの喪失の言葉だとは思わない。
それは、失ったものへの鎮魂であり、
残された者の宣言でもある。
すべては風と共に去った。
けれど、私はまだここにいる。
柊のように。
冬の風の中で、
とげだらけのまま、
静かに立っている。
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