社歌の概念を覆す「神曲」の正体ーーJR九州『浪漫鉄道』が30年以上、聴く人の心を走らせる理由
みなさんは『浪漫鉄道』という曲をお聞きになったことはありますか?
私はこの曲を聴くと、胸の奥からワクワクした感情がこみ上げてきます。
そして気づけば、JR九州で乗ったさまざまな列車の記憶が、
音楽に引っ張られるように蘇ってくるのです。
ここではまずこちらの動画を紹介します。
JR九州のさまざまな列車だけでなく、九州らしい景色も楽しめる動画です。
列車の座席に深く身を沈めた瞬間。
発車ベルのあと、ゆっくりと動き出す車体。
窓の外に流れていった、海、山、町、夕焼け。
思い出すだけでときめきます。
実はこの浪漫鉄道、JR九州の社歌なんです。
しかも、社歌らしからぬカッコいい歌。
それは、この曲が「社歌」であることを、
最初から放棄していたところにあります。
理由1:社歌なのに、聴き手はいつも「旅人」になる
『浪漫鉄道』には、社歌らしい主張がほとんどありません。
実際、「JR九州」という言葉。一番では全く登場せず、二番になってやっと出てきます。※1。(そこがまたニクイ)
その代わりに広がるのは、こんな言葉たちです。
卑弥呼
伝説の国
愛と神秘の平野
ここで描かれているのは、
旅の気配そのもの。
だから私たちは、
この曲を聴いた瞬間、
ただの旅人になります。
九州鉄道記念館の関係者が
「夢も現実も運ぶ列車のロマンを歌っている」
と語ったように※2、
『浪漫鉄道』は最初から、
誰かの心を移動させるための歌だったのです。
理由2:どん底で生まれたからこそ、希望がまぶしい
この曲が生まれた1989年、
JR九州は
287億円という大きな赤字を抱えていました※3。
「赤字の赤」と揶揄されたコーポレートカラー。
(カープファンとしてはとても他人事とは…)

未来が見えない中で、
それでも列車は毎日走らなければならなかった。
だからこそ、この社歌は
現実を歌わなかったのだと思います。
走り出せ 人よ時間よ
この一節を聴くたび、
私はいつも、「自分に向けられた言葉」のように感じます。
明確な答えがなくても、
とにかく前へ進むしかなかった人たちの、
静かで切実な祈り。
その切実さがあるから、
30年以上経った今でも、
私たちの心をまっすぐ揺さぶるのです。
ちなみにここからJR各社の社歌聞き比べができます。比べてわかる浪漫鉄道の良さ。
しかしJR貨物は「新撰組!」で土方歳三を演じた山本耕史さんが歌っています。あの土方さんは私のドストライクでした。声までイケメン。
理由3:列車のリズムは、人の感情と似ている
鉄道と音楽は、昔から深く結びついてきました。
19世紀の作曲家
アントニン・ドヴォルザークは
筋金入りの鉄道好きで、
列車の走るリズムに強く惹かれていたと言われています※4。
代表作
交響曲第9番 新世界より
の力強い推進力は、
蒸気機関車の鼓動を思わせます。
『浪漫鉄道』にも、同じものがあります。
一定のリズムなのに、
なぜか感情が前へ前へと運ばれていく。
それは、列車の揺れと人の心拍が、
どこかで似ているからかもしれません。
理由4:思い出を呼び起こす「音のスイッチ」
『浪漫鉄道』は、
2009年のCD収録、
2021年の公式MV公開をきっかけに※2、
今度はYouTubeやSNSで再生され、
人の思い出と結びつく音楽になっていきました。
動画を観て心が沸き立つのは、
そこに映っているのが
自分の過去の旅と、まだ見ぬ未来の旅
その両方だからなのかもしれません。
今度はJR九州公式チャンネルの『浪漫鉄道』の動画を貼ります。
JR九州の、これまで、今、これからを描いた動画です。
令和2年豪雨の影響で人吉駅はまだ営業休止です。
そんな切なさも思い起こさせるこの動画。
それでもこの動画を見ると、
列車に乗ろう!旅をしよう!
そう思います。
そして、鉄道を支えてくださっている
多くの人々への感謝の念も
抱かずにはいられません。
一番好きな歌詞は
「夢の列車が ひた走る」です。
このフレーズを聞くといつも泣けます。
結論:この歌は「また旅に出たくなる装置」だ
『浪漫鉄道』は、
JR九州の社歌であると同時に、
私たち一人ひとりの旅のテーマソングです。
列車に乗っていた自分。
窓の外を眺めていた自分。
これからどこかへ行こうとしていた自分。
それらを、そっと思い出させてくれる。
海に始まる
山に始まる
終わりなき旅へ――
この歌を聴いてワクワクするのは、
過去を懐かしんでいるからではありません。
また走り出したくなるから。
きっとそれこそが、
『浪漫鉄道』が「神曲」と呼ばれ続ける、
いちばんの理由なのだと思います。
参照元リンク一覧
※1 JR九州社歌『浪漫鉄道』歌詞(UtaNet)
※2 浪漫鉄道Wikipedia
※3 東洋経済オンライン
※4 ドヴォルザーク解説(Wikipedia)
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