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プログラミング・ブルー|第六話「2分の1成人式」|星野 詩空

LINEの着信を知らせる光が視界の隅に映り込む。多分母だろう。ほどなく玄関のドアがそっと閉められるのを感じる。


『仕事行ってくるね。お昼ご飯、サンドイッチと野菜スープ作れたよ。食べてね』


今日は大学の創立記念日で講義は休みだ。母は、私を起こさないよう静かに出かけてくれたのだ。お昼ご飯くらい、もう自分でなんとかできるのに。まだ子ども扱いしてくれることに素直に甘えている。


母は不器用な人だ。今朝だって、何かが落ちる大きな音がキッチンから聞こえてきて目が覚めた。恐らくステンレス製のボウルが床に激突した音だろう。時間のない中で、私のために昼ご飯を作っていて、誤って落としてしまった、そんなところだろう。


母の書きかけの手紙を見つけたのも、こんな穏やかな春の日だったと、ふと思い出す。

2分の1成人式。当時小学校でそんなイベントがあった。成人式が20歳を祝っていた時代、10歳を迎える4年生の児童も特別に祝われた。

学校は、児童の幼少期の写真と保護者からの手紙を要求した。そのお知らせプリントを目にした時の、母の心底迷惑がる顔が、容易に想像できた。

私は母が大好きだった。母を困らせたくなかった。自分が学校で特別に祝われることなどに微塵も価値はなく、プリントは捨ててしまいたかった。しかし、学校で娘だけ写真がない、という状態を母は悲しむであろうことも分かっていた。

仕方なく、プリントを手渡すと、「うわーきたね。写真探さなきゃー。手紙もね。ほら、ご近所の上村さんいるでしょ?あそこのお兄ちゃんの時も2分の1成人式あったって教えてもらってたから、心の準備はできてた」

心底迷惑そうではあったが、意外にも、少し楽しそうに見えた。

「お願いね」

写真と手紙の提出期限が迫ったある日、一人留守番をしていた私は、その進捗状況が気になり、リビングを探った。母の置きそうな場所は分かっていたので、それはすぐに見つかった。

まなへ

まな、10歳おめでとう!
あんなに小さかったまながもう10歳か。赤ちゃんの頃はほんとにかわいかったなぁ。(今もかわいいですよ)

まなにはまだ言っていなかったのだけど、お母さんはお母さんの記憶があまりありません。少しある記憶も、なんか、少し怖くて、少し寂しい記憶だけです。

だから、まなのお母さんになれた時すごく嬉しかったけど、お母さんになれるか、不安しかありませんでした。

ちゃんとお母さんできてるかな?
不器用だから、恥ずかしい思いいっぱいさせてるよね。忘れ物もいっぱいさせちゃってごめんね。

お仕事遅くなった時、お留守番してくれてありがとう。お手伝いもしてくれてありがとう。

これからもまなが幸せなら、お母さんはなんでもいいや。
大好きだよ。

2分の1成人式も悪くないかも。

実際に渡された手紙の文章は随分と整えられていた。不器用な母は、何度も書き直してくれたのだろう。私が恥ずかしい思いをしないように。

今日もMacBook Airを開きポルックスを描く。


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