映画『国宝』で業の深さに心がえぐられまくった件【映画感想文】
※以下、本文では映画の内容や劇中のセリフについて言及しています。
ネタバレにご注意ください。
本日、母に誘われて映画『国宝』を見に行ってきました。
私は普段から「映画館で見るなら洋画」派を決め込んでいるので、これはかなり珍しいケースだ。
そのうえ母と違って、原作も未読。
とまあ、いろんな方面から怒られるかもしれないステータスの私が見に行っているわけでして。これで他のみなさんにとって鑑賞のハードルが下がるのなら安いもんだと(勝手に)思っている。
要するに「めっちゃよかったです」という、シンプルな感想が私にとってのすべてです。はい。
正直なところ、私は歌舞伎に全く詳しくない。昨年初めて南座にて『阿古屋』を、その後にシネマ歌舞伎の『京鹿子娘道成寺』を見ただけだ。
生の歌舞伎にいたっては1回きりだが、坂東玉三郎さんの所作一つひとつがあまりに美しく研ぎ澄まされていて、「今日ここで、この人の舞台を目の当たりにできることがどれほどの僥倖か!」と心が震えた経験は何物にも代えがたい。
何十年も稽古を繰り返し、体に染み込んだ”もの”はもはや技術の域を超えているのだろう。思わずくらりときてしまいそうな長い時間と、あまりに途方もない努力の積み重ね。人の営みとて塵も積もれば山となり、いつか神々しく輝くのではないかと。そうやって受け継がれてきたものが歌舞伎ではないのかと。
つまり、日常からはまったくかけ離れた世界が歌舞伎だと、もっと言えば芸事なんだと、一般ピープルの私は思わざるを得ない。だから、生来の歌舞伎役者でない俳優陣をキャスティングして作り上げた事実だけでも、もうとんでもないのだ『国宝』という作品は。
自分では絶対やり遂げられる気がしない。そもそもやれと言われるはずもないけれど。
なお、撮影にあたってキャスト・スタッフがどれほど熱意をもって取り組まれていたかはパンフレットのインタビューからひしひし伝わってきます。演じる側はもちろん、裏で支える側のお話が読めるのもうれしいポイント。税込1100円とお手頃価格なので、ぜひ皆さんお買い求めを!(突然の宣伝)
さて。原作をそのまま映像化するには当然ながら3時間でも足りないに違いない。
そこで、物語の軸を喜久雄と俊介、2人の関係性に集約したおかげで、歌舞伎を題材にしながらも「血筋」と「才能」という業の深いテーマが際立つ構図になっていたと思う。
生まれながらにして歌舞伎一家の跡取りである俊介は、血筋に守られている。けれど圧倒的な才能が目前に現れた時、そして自分にはそれがないと気付いた時、焦燥と絶望はどれほどだろうか?かといって、才ある友が正しく報われない世界を認められるだろうか?わが身可愛さで不正から目をそらしたとしても、自分はまるで裸の王様ではないかと虚しくさえ感じるのではないか?
血筋は揺らがぬ盾だがあまりに重く、気が付けば持ち主を縛り付けている。
一方で、歌舞伎に魅了されどんどん才能を開花させていく喜久雄は、歌舞伎界ではとことんよそ者だ。血筋は、どれだけ渇望しても後から得ることはできない。血縁がもたらす愛情であれば、なおさら。
ではいったい、本物の芸とは?本当に銃や刀より強いといえるのか?血のつながりひとつ、断ち切れないというのに?
由緒ある血。芸を極める才。それぞれが片方にしか宿っていないから、両方を求めるほどにないものねだりになる。終わりの見えない苦しみは、まるで地獄絵図を目にしているかのようだ。
苦しくて、歌舞伎が憎くて。それでもなお、舞台から降りることができない。降りたら最後、どこに行けば、何をすればいいのかもわからない。自分には歌舞伎しかない。だから血反吐を吐いてでも、辿り着く先はそこなのだと。
ビルの屋上でひとり舞う喜久雄の姿を見た時、私はただこんな思いが沸き上がってきて、気づけば涙していた。
劇中、人間国宝である万菊さんが「あなた歌舞伎が憎くて憎くて仕方ないんでしょう。でもそれでいいの。それでも舞台に立つの」(※うろ覚えです、すみません…)と言う台詞があるのだけれど、このシーンで意味がすとんと落ちた気がした。
なんというか、本当に、演ずるって“業深い”んだと思う。
業、としか私には表現のしようがない、底知れない何かがあって。業に突き動かされ、自分が自分であるために舞台に立つことが、すなわち生きることそのものなんだと。
だから私は、千差万別に舞台から投げかけられる業のかけらに、いつも心をえぐられるんだと。
『国宝』に突き付けられた”業”の余波で、私の心はまだ静かに、けれど確かにざわめいている。
あと、今めっちゃくちゃ歌舞伎が見たい。できれば「曾根崎心中」か「鷺娘」で。
幸いにも京都住みで南座も近いので、演目はこまめにチェックしよう。
そういえば来たる7・8月に南座で夏の「舞台体験ツアー」が開催される。
実は私、映画を見る前に申し込んでいたのだけれど、俄然楽しみになってきた。気になる方は、以下のサイトをご覧くださいまし!
結局、自分ででも引くくらいお気持ちがぶわっとあふれ出して、言葉が上手くまとまらなかった。まあ、いつもこんな感じだわな。
確かなのは、この映画が私にとって「見てよかった」作品だったということ。
観劇好きな方や歌舞伎に関心のある方は、よろしければぜひ。
ちなみに主題歌「Luminance」の旋律と歌声がべらぼうに美しいので、エンドロールは最後まで立たず、耳を澄ましていただけると全私がよろこびます。
